第23話 生配信するなら乗っ取りで
「いよいよですね!」
気合の入った愛里ちゃんが、小声で元気よく言った。
「彼らは油断しているようです。今のところ周囲に人影はありません」
視線の先には、冒険者と思われる男が4人と少々派手な恰好の男が1人、そして、狐耳に尻尾を付けた巫女服姿の女性が1人、仲良く談笑している。
時刻は夜のため、ダンジョンの中はうす暗いが、獣人ならば移動に支障はない。また、男たちは照明を使用しているので、そこだけ昼間のように明るく、こちらが見つかることはないだろう。
「犯人たちの様子はバッチリ撮れてますよ!」
「声も拾えています。証拠になりますね」
「計画通りです!」
私たちが潜んでいるのは、〈狼ダンジョン〉の17階層。今日は、玉藻の前の偽物が生配信を行う日である。
もう分かっていると思うが、談笑している男たちこそが、その生配信をする予定の者たちである。
そして計画とは、その生配信の乗っ取りと『マヨヒガ』の乱入だ。
「マルチドールコアの性能が高くて良かったです。これなら全ての視聴者を『マヨヒガ』チャンネルへ誘導することができます」
実際には、サーバー側をいじるらしいので、視聴者を誘導するというのは適切でないらしい。詳しくは分かんない。
「これでチャンネル登録者もいっぱい増えますね!」
『マヨヒガ』チャンネルの管理を一任されている愛里ちゃんはやる気の様だ。
チャンネルアイコンがどうとか、ヘッダー画像がどうとか、視聴者の呼び名がどうとか、色々と精力的に動いていた。詳しくは分かんない。
「そろそろ配信が始まるみたい」
「私たちも準備しましょう!」
「うん。変身!」
「偽物たちにぎゃふんと言わせるのが楽しみっス!」
「ボクは初めてだから、ちょっと緊張します」
「緊張せずともキムンカムイなら大丈夫じゃ」
「何かあったらフォローするっス!」
「はい。よろしくお願いします」
――はじまった
――はじまったぞー!
――きたーーー!
――お狐様ー!
「はい、お前らこんにちは! 『突撃!隣の冒険者!』のしゃもじでっす!」
――しゃもじはひっこんでろ!
――お狐様を出せ!
「うわっ、ひっでえ! まあいいか。いろんな冒険者に突撃取材をしてきた俺だけど、今日の相手は一味違うぜ」
――前置きとかいいから!
――お狐様! お狐様!
「なんとあの! スタンピードに現れたあの! お狐の! 玉藻の前への突撃取材だぁ!!」
――様を付けろよデコ助野郎が!
――本当に玉藻の前様なのか?
――こいつスタンピードから逃げてた
――なんでこいつのチャンネルに出るんだよ
「しかもだ。今回の生配信は、玉藻の前からの『直接!』依頼だからなぁ! 俺くらいになると、玉藻の前からも依頼が来ちゃうんだぜ。モテる男ってやつ? ごめんね、モテて」
――どんな卑怯な手を使ったんだ!
――お前モテてねぇだろw
――独身の癖に何言ってんだw
「それじゃあ玉藻の前にご登場いただこうか! 来てくれ!」
森の奥から現れたのは、狐耳に尻尾を付けた巫女服の女性。頭上の耳は周囲を伺うように左右へ動き、尻尾はゆらゆらと揺れている。
「またせたの。妾が玉藻の前じゃ」
――きたーーー!
――玉藻の前様ー!
――お狐様ー!
――もふもふ!もふもふ!
――あれ?
「どもっす。いやー直接見るとすげー綺麗だな。今日はよろしく!」
「うむ。妾から頼んだことじゃからな。よろしく頼むぞえ」
――なんかおかしくね?
――映像変わった?俺だけ?
――おかしいよね
――ん?
「テレビで言ってたけど、その耳って本物? まじで妖怪なわけ?」
「もちろん本物じゃ。聞こえておるし感覚もある。妾のような妖怪は全国にたくさんおる」
――なにこれウイルス?
――チャンネル名おかしいぞ
――なんだこれ画面隅になんか熊?がいる
――『マヨヒガ』チャンネルって?
「ん? どうしたお前ら? もっと反応してくれていいんだぞ。さっきから全くコメント付いてないぞ」
「どうしたんじゃ?」
――おい、この配信、しゃもじの配信じゃないぞ!
――どうなってんだ?
――いつのまにか『マヨヒガ』チャンネルってなってる
――熊がなんか言ってるぞ
――なになに『この配信はマヨヒガが乗っ取った』?
「どうした? 配信エラーか? おい! そっちはどうなってる!」
「配信ページに行けない! 『マヨヒガ』ってところに飛ばされちまう!」
「何が起こっておるのじゃ……」
「おい! あいつは!」
配信が思うようにいかず、焦るしゃもじの目に映ったのは、青白く輝く1匹の狐。体高は人の背丈ほどあり、色と合わせて尋常のものではないとすぐに分かった。
そして、その姿には見覚えがある。
配信を通して見ている者たちにも、当然見覚えがある。
「あ、あいつは! 玉藻の前の狐!」
「どうしてここにおるんじゃ!」
「こっちに来るぞ! うわあ!」
「きゃあ! やめてぇ!」
走り寄った狐は、玉藻の前の股に鼻先を突っ込むと、ポイと空中へ投げ飛ばした。くるくると縦回転する偽物は、耳をつんざくような悲鳴をあげて、ただただ翻弄されている。
「きゃあああ!」
落ちてきた偽物の巫女服を咥えるようにキャッチし、ブンブンと左右に揺さぶる。そうすると、装着が甘かったのか、狐耳と尻尾がピョーンとその身から飛び出していった。
振り回されている偽物自身はは、そんなことに気を回す余裕もなく。ただただ狐のイタズラに翻弄されっぱなし。
――おい、耳が飛んでったぞ!
――やっぱり偽物か!
――でもこの狐は本物っぽいぞ
――もしかして、本物もいるとか?
「どうなってんだ……。なんなんだよこれ……」
目の前の状況が理解できず、立ち尽くすしかできないしゃもじの耳に、静かな声が届いた。
「狐よ。それくらいでよかろう」
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