第3章 新たなケモミミ現る?

閑話 冒険者協会日本支部・関東局にて

「報告書をありがとう後藤君。急ぎで悪かったね」


「いえ。業務ですので。それで、どのような用件でしょうか」


「彼女たちと会話を交わした君に、直接話を聞きたいと思ってね。報告書は客観的事実に過ぎない。私が知りたいのは君の主観だ」


 後藤理恵の前に座っている女傑は、冒険者協会日本支部・関東局のトップ、長谷川君枝(はせがわ きみえ)だ。


 彼女の年齢は、すでに50を超えているが、その容姿、肉体、覇気は、とてもそうは見えない程に若々しい。


「どのような事をお聞きになりたいんでしょうか」


「そうだね。強さ、については疑うべくもない。それ以外が聞きたい」


「わかりました」


 理恵は、頭の中でスタンピードのことを思い返した。


 狐巫女の噂については知っていた。耳と尻尾を生やした巫女服姿の女性が、冒険者をイレギュラーモンスターから救ったと。


「こちらにとても友好的でした。言葉の端から感じられたのは、人への期待、でしょうか」


「ふむ。期待、か」


 君枝は少し考え込むように、小さく呟いた。しばらく室内には沈黙だけがあり、顔を上げた君枝が次を促した。


「真神の方は?」


「彼女は見た目通りの少女と言った印象です。玉藻の前に従っているようです。ただ、力関係というよりは、慕っていると言った方が適切でしょう」


「主は玉藻の前にあるということだね」


「はい」


 どちらが主導権を持っているかと問われたら、間違いなく玉藻の前だと理恵は思った。それでも主従かと問われると、それは否だと感じる。友人、家族、仲間、言葉はいろいろとあるだろうが、信頼関係がそこにはあった。


「彼女たちの名前を聞いた後、引き留めなかった理由は?」


「追加の質問をすべきか悩んでいたところ、明確に壁を感じました」


「ほう。聞かれてはまずいことかな」


「どちらかというと、状況を楽しんでいるようでした」


「なるほど。聞いたとしてもはぐらかされるか……。はは、本当に狐のようじゃないか」


 笑う君枝の顔は、少女と言ってもおかしくない程無邪気なものだった。

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