第27話 転生するなら玉藻の前で

 セーフ! なんとか間に合った。


 ミミミちゃんは壁際に追い詰められていたが、ひどい外傷は見当たらない。おそらくまだHPが残っているんだろう。


「そこな娘よ。手助けは必要かえ?」


「……」


 なんか、ミミミちゃんが呆けていて、反応してくれないんだけど。


 うーん。急に狐耳美少女が出てきたらこういう反応になるのも仕様がないか。助けることは決まってるんだし、こっちでやらせてもらおうか。


「特にケガはないようじゃな。ほれ、これでHPも回復するじゃろう」


〈呪符〉でミミミちゃんに自然回復量上昇のバフをかけた。呪符を飛ばして張り付ける際、ちょっとビクっとなったのには気付かないふり。攻撃じゃないよー。怪しくないよー。


「狐よ、よくやった。相手は、ずいぶん小さい巨人じゃのう。ふふふ」


「気を付けて、ソイツはエリートスプリガン! この辺りいるモンスターとは別格の強さよ! あなたがどれほど強いのかはわからないけど――」


「案ずるな娘よ。ここは妾に任せておけ」


 エリートスプリガンか。スプリガンというモンスターの名前だけは知っている。たしか、巨人が小さくなって力が凝縮されたモンスターだったはず。


 サイクロプスより強く、オークよりも小さい。つまり、怪力で強靭でさらに素早いということ。


 そのエリート個体ということで強いんだろうが、感じる雰囲気はそうでもない。〈狐火魔法〉で作った狐を警戒して様子をうかがっている。


「さて、強いらしいが……、どれほどか試してみるか」


 パン、と柏手で打って狐を9つの浮遊する狐火に変化させた。ちなみにこの動作には全く意味がない。私はミステリアスさで魔法を使っている。


「ほれ」


――ガアアッ!


 狐火による絨毯爆撃を受けて、エリートスプリガンの口から悲鳴が漏れた。必死に逃げようとしているが、こちらの強化された〈魔力操作〉の前には無駄な努力よ。


 あまりやり過ぎるとこれで止めになってしまいそうだから、半分はわざと外している。エリートスプリガンの強さがどれくらいか、検証もしたいしね。


 魔法を受けたスプリガンは、確かにボロボロだが、まだまだ元気な様子。


「ふぅむ。魔法耐性はほどほどと言った所か。これはどうじゃ」


 爆撃の合間に取り出して置いた鉄扇をスプリガンに向けて、今度は点の攻撃。収束させた狐火はさながらレーザーの様にスプリガンの腕に小さな穴を開けた。


――ギャッ!


 しかし、その穴はすぐに塞がっていき、数秒もしないうちに元の状態へと戻ってしまった。


「自然治癒力が高いのか。ある程度の攻撃範囲はあった方が良いの。さて次は、これで相手をしてもらおうか」


 魔法耐性が大体わかったので、お次は物理耐性だ。鉄扇で試すぞ。


 近接戦闘はオーガと同じく楽しめるといいな、と思ったんだけど。狐火でのダメージがかなり蓄積していたらしく、精彩を欠いた攻撃ばかりで楽しくなかった。


 これなら、エリートオーガの方がまだ強い。なんだか興ざめだ。


「こんなものか。弱い者いじめは好かん、終わりにしよう」


 スパっと首を落として終了です。ドロップアイテムは、オーガが落とす魔石(大)よりも更に大きい魔石だ。これは高く売れそう。袖の中に仕込んだマジックバッグに入れておく。


 あれ、でもこれを換金したら玉藻の前との関連性がバレる? なんてこった、高く売れそうなのに不良在庫になってしまうのか。


 売るのが難しいなら、本格的な玉藻の前デビューの記念として部屋に飾っておこうかな。小さな座布団みたいな台座の上に置いて、ガラスケースに入れておく。良さそうじゃない。


「あの……」


 おっと、まずはミミミちゃんとの遭遇を終わらせないとね。立ち上がった彼女の姿を改めて確認する。おー、生ミミミちゃんだ。じゃなくて、割と元気そうだ。


「うむ、大事なさそうじゃな」


「あっ、はい。おかげで助かりました」


「それは良かった。札も役目を果たしたようじゃ。ほい」


 ミミミちゃんに張り付けていた呪符を剥がし、手元に呼び戻してから消す。この動作にも何の意味もない。私はミステリアスさで呪符も使っている。


「さて、帰り道はわかるか? 一人で帰れるか?」


「は、はい。大丈夫、だと思います。多分」


「心配になる物言いじゃのう。ふぅむ、この呪符を張り付けておこう。これでお主の足もそれなりには速くなるじゃろうて」


 少し心配だったので、敏捷上昇の呪符をミミミちゃんに張り付けておく。さらに『呪符』というワードもチラ見せだ。ふふふ、ミミミちゃんのドローンが配信中だということには最初から気付いていたよ。


「それでは妾は先へ行く。お主も帰るまで気を抜く出ないぞ」


 軽くジャンプしてからの『狐召喚魔法(1人乗り)』で、狐の上に着席。これも地味に練習しておいたんだ。練習が無駄にならなくて良かったー。


「ではな」


「あっ、私、未玖っていいます! 本当にありがとうございましたー!」


 ふふふ。去っていくミステリアスな玉藻の前に少し戸惑いつつも感謝の言葉の述べる。そのミミミちゃんの反応だけでこの世界に転生して良かったと思える。私の方こそありがとう!


 やっぱり、転生するなら〈玉藻の前〉だね! 最高に楽しい!


――――――――――――――――――――

2024/04/01 玉藻の前の一人称を「妾」に変更


――――――――――――――――――――

【あとがき】

これにて1章終了です。お読みいただきありがとうございました。

掲示板回、登場人物紹介、閑話を挟んで2章となります。

(明日3/14、12時から3話をほぼ同時投稿します)

2章もお楽しみいただければ幸いです。

(2章1話は3/14 18時からです)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る