第14話 移動するなら電車で

 侮りがたしダンジョン配信。


「ふわぁ、ねみゅい……」


 配信動画を見ていたら、就寝予定時間を2時間もオーバーしてしまった。反省はしている。次からはちゃんと寝よう。


 それにしてもダンジョン配信だ。これほど熱中してしまうとは、思いもしなかった。


 ダンジョン配信のスタイルは大別して2つある。1つは楽しみながら配信する、いわゆるエンジョイ配信だ。そしてもう1つが、モンスターを倒しダンジョンを攻略するガチ配信だ。


 私が熱中したのは後者。ガチ配信だ。


 華麗な戦闘で魅せる配信や泥臭く一歩ずつ進む配信、パーティ連携の妙を感じさせる配信など、見ていると体がうずうずしてくる。


 思わずコメントを送ろうとして、アカウント名が本名そのまんまだったので、あわてて「アキ」に変えた。明(あきら)だから「アキ」ね。


 ガチ配信の中でも私が一番気になったのが、『火剣のミミミ』というチャンネル。中の人は、南未玖(みなみ みく)という若い女性。名前に「ミ」が3つ付くから、ミミミちゃんと呼ばれている。


 戦闘スタイルは〈剣術〉と〈属性魔法【火】〉を使った素早い魔法剣士タイプで、なんだかちょっと親近感がわく。


 さらに、頭に〈集音の頭飾り〉という、音を利用した気配察知にプラス補正がかかる〈マジックアイテム〉を装備している。


 これの見た目が、ケモミミなんだ。


 初めて目にしたときは、「もしかして獣人!?」と見間違えてしまった。


 ミミミちゃんもそれは意識しているのか、たまにニャンニャン言っている。いやそこはコヤンコヤンでしょ!とツッコミたくなるよね。これが思わずコメントしたくなった場面。


 そんなミミミちゃんは、ソロのCランク冒険者で主にCランクダンジョンへ入っている。ここも私とちょっと似ててまた親近感。


 モンスターのグループ相手にも一歩も引かず、バッタバッタと切り倒すのは実にかっこいい。そして決め台詞が「勝ったニャー!」。いやそこは「勝ったコヤーン!」にならない? 語感が悪いかな……。


「ふぅ。それじゃあ私もダンジョンに行きますか」


 ちょっと眠いけど、ダンジョンに行く元気は十分。


 今日入る予定のダンジョンは、関東04〈狼ダンジョン〉だ。25階層のDランクダンジョンで、名前の通り狼が多数出現する。


 階層タイプは森や林なんかがメインの屋外自然型とのこと。屋外タイプは初めてなので、どんな感じかちょっと楽しみだ。


 ちなみに屋外タイプには昼夜がしっかりとあるんだけど、時間の経過はダンジョン外とリンクしている。外が昼なら、中も昼だ。


 購入した防具を身に着け、準備はバッチリ。ちょっとテンション上がる。


「むふー。私、冒険者だ」


 足取りも軽く、駅へと向かう。


 狼ダンジョンはマンションからは少し離れている。徒歩でも行けなくはないけど、楽に・早く行けるなら電車での移動の方が良い。


 駅には、ダンジョンが出現したことで変化した点もある。


 それが、『武器持ち込み者推奨車(または推奨区域)』だ。


 冒険者は武器を持って戦うのだけど、拠点からダンジョンまでは武器をかついで移動することになる。私も身長ほどの長さの槍をかついでいる。


 一般の、冒険者でない人たちからすると、危険な武器を持った人がそばにいるというのはストレスだろう。


 そこでなんとなーくの空気感が、なんとなーくの合意形成を得て、なんとなーく全国の鉄道会社が『武器持ち込み者推奨車(または推奨区域)』を設定した。


 大抵は駅のホームの端っこ。そこに武器を持った冒険者が固まっている。もちろん『推奨』でしかないので、混雑していないときにはどこに乗り込もうと自由だ。結局のところ、譲り合いの精神というわけ。


「早朝ってわけでもないけど、平日の昼間でも結構人がいるんだ」


 3グループで10人くらいの冒険者がホームにはいた。私と同じく長物を担いでいる人もいる。


 冒険者は過去を詮索しないのがマナー、というのは異世界の話で、この世界では別にそんなマナーはない。ないんだけど、そもそも初対面の人の過去を詮索するのは普通にマナー違反だろう。


「あっ、ども」


 偶然目が合った男性が簡単な挨拶を発したので、こちらも軽く頭を下げて礼をした。いや別にコミュ障じゃないよ? ただちょっと……、急だったから。


 端っこの方へ行き、ベンチに腰掛けて電車を待つ。心の狐耳はピンと立ち、彼らの会話を盗み聞きだ。


『何、知り合い?』

『いや、違うけど。目が合ったから』

『はは、それ自意識過剰ってやつ。めっちゃ警戒されてるじゃん』

『うえ!? まじ?』

『私もそう思うわ。女の子一人っぽいから気を付けないとだめよ』

『ちょっと、お前同じ女だろ。行って誤解を解いてきてくれよ』

『嫌よ。めんどくさい』

『それなら俺が行こうか?』

『お前はチャラいからもっと警戒されそうだ。別に何かあるわけじゃないんだから、ちょっと気にかけるだけにしとけよ』

『俺は誤解されっぱなしなんだが!?』

『あんたの誤解より、少女の安寧の方が大事でしょ』


 紅一点のお姉さま、お気遣いありがとうございます。


 どうやら、女の冒険者が一人だけということでそれなりに目立ってしまっているようだ。電車に乗るたびに目立ってしまうのは、少し考え物だな。


「マジックバッグがあれば、装備を仕舞って移動できるんだけど」


 せめて槍だけでも仕舞えれば、他の装備は袋に詰めて目立たずに移動できる。槍を選んだのは失敗だったかな? でもリーチはパワーだし。


 やはりマジックバックか。冒険者がこぞって求めるのにはしっかりと理由があるんだ。

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