式典へ…でも、アルさんは居ない
次の日も、その次の日も…部屋に篭っていた。
食堂へ現れない僕を心配して、サーアが食べ物を持ってきてくれた。
空腹感は無かったけど…せっかく持ってきてくれた物を捨てられもせず、ハンナさんのご飯だから…と、なんとか口に入れた。
味がしない、味覚はどこへいったんだろうか。
とりあえず、裂かれた服は、上手いこと直した。
こういう事は、何も考え無くても出来るので、その時だけは、目の前の、縫う作業だけに集中して。
もしかして…アルさんが来てくれるんじゃないかと淡い期待をしたけれど、現れてはくれなかった。
こんな時だけ、存在を欲するなんて、僕はズルい…そんな都合良く助けて貰おうなんて。
そして、ここから逃げたくても、逃げる勇気すらも持てなくて。
僕はずっとどうするかを悩んでは、疲れて寝て、また起きては悩んで…
悩む事に頭が疲れたら寝る…という、そんな事を繰り返した結果。
気付いたら…
もう、第二王子の王位継承権印加の式典の朝だった。
僕は、逃げなかったんではなく、ぐるぐると悩んだ結果、時間が過ぎて、逃げられなかった。
という、お粗末な話。
僕は…それでもまだ執念深く、頭の片隅には、逃げ出す事も入れたまま、ゆるゆるとドレスに袖を通した。
首には姉上から貰ったレースを巻いて。
アルさんが「式典で待ってる、見つけて…」と言った、その言葉だけを支えにして、重たい身体を引き摺りながら、扉から出た。
サーアが何も言ってこないとこを見ると…
バードは、まだ誰かにバラしてない可能性が高い。
サーアの耳は早いから。
少しだけその事にホッとしたけど…逆に、知ってしまって嫌われ、何も言って来ないだけかもしれない。
考え始めると、悪い事しか浮かばない。
式典へと参列する人々が歩いていく方へと…進む。
足はすくみ、震えるが。
なんとか…姿勢だけは真っ直ぐに、虚勢を張って。
バードもどこかにいるかもしれない。
どうか、この混雑に紛れる僕を見つけず、ほっといて欲しい。
式典が終われば…ちゃんとここから去るから。
頼むから…と祈る気持ちで。
前を見ると、僕のプレゼントしたレースを首や、髪に巻いてる人が見える。
ほんの少しだけ、心が軽くなった。
肩をポンと叩かれ、身体が飛び跳ねた。
罪人みたいに怯え、ビクビクしている僕。
自分で撒いた種とはいえ、これはかなり心臓に悪い
「リュカ、見つけた!良かった…元気になったかしら?」
数日前、食べ物を持ってきてくれたサーアに、黒板で風邪だと伝えたから、それを信じきっているサーア。
そのいつもと変わらない笑顔に、僕はとても安堵した。
僕とお揃いみたいに首には、プレゼントしたレースを巻いてくれていた。
やはり、とても似合っている。
「どう?素敵なレースでしょ?親友が作ってくれたのよ」
お茶目にそんな事を言ってくれる。
なんとか笑顔を作ってみるけど、頬が強ばっていて、上手く笑えないよ…
王宮への階段を登ると…豪奢な宮殿が
壁の向こうはこんな世界になっていたのかと、異次元へと迷い込んだみたいに。
宮殿の外壁の彫刻や、とても頑丈そうな建物の造り、建物の周りには様々な見た事の無い花が至る所に植えられ、植木の剪定の美しさ…とにかく圧倒されてしまう。
入り口には、体躯の良い門番の近衛兵が何人も立っていて、入っていく人に目を光らせている。
そこを通る時は、皆がなんとなく緊張している感じだ。
僕もサーアと共に…踏み入れる、初めての場所。
この式典では、成人だとされる20歳に達した第二王子が印加の受諾により、王位継承権を正式に受けるという大事な式らしい。
君主の第一子が男女問わず継承権一位らしいので…それに次ぐ第二王子は、第二位の権利があるのだろう。
王子様には、悪いけど…僕としては、一刻も早く終わって欲しい…この式典。
それでも、サーアやハンナさん、エマさん、他の皆んなとの別れの時が近いという寂しさもある、バードから何か言われるのでは無いかという恐怖もある、色んな感情が、ごちゃ混ぜになっている心は、全く落ち着かない。
式典の会場となるのは、礼拝堂で。
大小のドームが連なる重厚な造りの建物、その本道内に入って一番に、僕がしたのは、もちろんアルさんを探す事。
どこに居るの?見つけてって言ってたのに…居ないじゃないか。責めるような気持ちで周りを見る。
騎士が沢山整列している場所を見たけど、そこに居るはずなのにおらず。
キョロキョロと探しみるのに…何処にも居ない、見つけられなくて、どんどん焦る僕。
「リュカ、誰か探してるの?」
その問いに答える事も出来ないほど、迷子みたいな気持ちで、必死に視線を動かした。
なんで?どうして?本当に居ないの?
待ってる…って言ったのに。
もう、式典も始まるのに。
そうか…
やっぱり、僕に言った事は嘘だったのか…
ただの慰め的な…何かだったのだろう。そうだったんだ…と飲み込んだ。
本当に酷く酷く…落胆し、ドレスの膝をギュッと握りしめた。
しかも、キョロキョロしてる時、最悪な事に…バードが後方に居るのが目に入ってしまい、僕は…泣き出してしまいそうだった。
心が
もう、僕は下しか見ない事にした。
下を向いたまま、このまま終わるまで…ジッとしていよう。
リーアは、僕がまだ体調が回復していないと思ってくれてるみたいで、時々声を掛けてはくるが、そっとしておいてくれた。
僕は、ここに来て…一番の孤独感を味わっていた。
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