めがね(一)
高橋源一郎という人の「さようなら、ギャングたち」という小説を私が朗読し終えると、長机の右側にある水槽のなかから、アメリカザリガニが、やっぱり、高橋源一郎は何度聞いてもいいなあとテレパシーを送ってきた。
私がかけていた眼鏡をはずし、目薬をさすと、叔父であるザリガニが、イチカもお年頃だろう、コンタクトにはしないのかいと言ってきた。
私はハンカチで目をふきながら、「痛そうじゃない。嫌よ」と答えた。
勉強も大事だけどなー、イチカにはもっとかわいくなってもらいたいなー、おしゃれさんになってほしいんだ、これは別にイチカが女の子だから言っているわけではないんだ、おいちゃんの若い頃を思い出して、言っているんだ、おいちゃんには青春時代がなかった、だからこそ思うんだ、人間には若いうちにキラキラした時代が必要なんだと、年を取ってから、そういう過去が必要になる、年を取ってからおしゃれをしても、あんまり意味がないとおいちゃんは思うんだ、暴論かな?
「暴論よ」と言いながら、私はめがねをかけ直した。
でも、イチカの今のところの夢は、JKになることなんだろう、前にそう言ってた、だったら、キラキラしたJKになっておくれよ。
「なに。ギャルになれってこと?」
そういうことじゃないけど、そういうことかもしれない。
語尾弱く言うおじちゃんに、私は少しイライラして、「どういうことよ?」とたずねた。
すると、おじちゃんは、話をまとめると言ったきり、黙ってしまった。
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