第7話 ニンフ00の決断【KAC20243】
墜落したニンフ03に集まっていたニンフ三機は、同時にセンサーの集中している頭部を空へ向けた。
空は七色に輝き、瞬いている。
「百年前の記録映像と、同じ現象なのだわシャープ」
■ニンフ00、計器が滅茶苦茶になっているぞ!■
虹色の光が収縮して一際強く輝いた瞬間、空には巨大な灰色の箱が浮いていた。
「そう、同じ事も起きる訳、ね。」
□共和国首都セントラルコロニー直上に、超大型の未確認飛行物体出現□
その箱の全ての面で、不気味に赤く光る一つ目が見開かれる。
赤い目からは子機と思われる大量の小箱が飛び出していき、荒野に唯一ポツンと存在する長方形の人工物であるセントラルコロニーを囲い込まんとしている。
子機が放つ赤い閃光は、コロニーの真っ白な外壁を茹で卵の殻を剥がす様に消し去っていく。
急に外壁が無くなった内部はパニック状態だ。
□巨大物体から飛翔体、多数□
「いけない! 01! 02! あの小箱を叩き落として!」
■集約しすぎたのが仇になるとは……。ログの通りなら不味いぞ!■
=01、了解! 故郷の危機から人類の危機とはな。
=02、りょーかい! うわっ、アレ、ドラマで見たことあるんだけど。
全てを滅ぼし尽くす存在との戦争から百年。
何もかもを削り切られた地球に残された人類が生存の為に出した答えは、一極集中による効率化だった。
このコロニーと呼ばれる生活圏が、今の人類の全て。
居住区に学校、更には生産拠点までが集約されたコロニーは頑丈に作られているが、戦後に造られた為、全てを滅ぼし尽くす存在からの攻撃までは想定されていない。
百年前の真相を知った今、楽観的な想像が出来なくなったニンフ達は全てを滅ぼすのではなく、全てを奪わんとする尖兵に対して苛烈な攻撃を仕掛ける。
□対艦ラ、敵至近危け、エネ、敵至近危け、対艦ラ□
「戦闘システムミュート! キリが無いわね」
■ニンフ00、安全の為にもミュートにしないで欲しいのだが……■
器用にも巨大なライフルとエネルギーソードをそれぞれ構えたニンフ00は、展開される敵群体をアンバランスな装備で戦っているとは思えない華麗さで次々と叩き落していく。
百年前でも撃退できた相手に対し、彼女たちは優位に戦況を進めていく。
ついには全ての子機を失い赤い目を閉じた灰色の箱が、現れた時と同様の虹色の光と共に消え去った。
=やったのか?
だが、空は再び虹色に輝き始めると同じように発光し、新たに二つの箱が現れた。
=01さぁ……。
=俺のせいか!? ■そうね■
「仕方ないわね。彼らを起こしましょう。イヴ、お願いするのだわ」
◇現場指揮官からの緊急要請を確認。ゴースト・システム起動◇
00の言葉に即反応した戦略AIイヴの宣言により、セントラルコロニー周辺から次々と灰色の影が飛び立っていく。
高速で展開した灰色の影たちはニンフたちを囲うように旋回すると、人型と成り空中で陣形を作って見せた。
その姿はニンフと瓜二つだ。
=ログを見たけれど、ずいぶんな状況らしいね。
=嬢ちゃんが隊長かよ。時の流れを感じるねぇ。
=最近の機体はすげえな。シミュでは使ってるが実機は違うぜ。
「うるさいのだわゴーストさん達! 各機、全武装自由! 突撃!」
===イエス、マム!
彼らはゴースト。
名前の通り幽霊という訳では無く、過去のパイロットたちのログから作り出されたAIパイロット達だ。
それぞれの強みを生かす為、混ぜられることなく個人ごとのログから制作された彼らは、本人が除隊したり死亡した後も最盛期と同等の能力で空を駆ける。
青と灰のニンフ達が青空を駆け巡る様子は、まるで空が実体を持って舞っているかのようだ。
=どうだ! シミュレーターの再現に、成こ……。
突出した灰空の欠片が、空に浮かぶ灰色の箱の赤い目を紫電纏う貫手で撃ち抜いた。
次の瞬間、空が白い光に染まる。
シミュレーターには設定されておらず、宇宙人にとっても想定外なその一撃は、大爆発という結果を引き起こす。
灰箱の射出した小箱が飛び回る戦場に巨大な光の球が生まれ、後には半壊した灰箱一基が残された。
半壊した箱はゆっくりと郊外に墜落していく。
そんな大爆発の中でもしぶとく生き残っていた灰空の欠片は、頑丈な胴部分のみの状態でフラフラと飛んでいる。
=へへ、ログデータの、接収に成功したぜ
「確保ぉーー!」
==イエスマム
=ちょっ!お前ら、やめ……!
そんな彼をもみくちゃにしながら確保するニンフ達は、ゆっくりと地上へと降下していく。
=……02、俺は夢でも見てるのか?
=いつも通りフォルテが騒いでるから、現実だよ01。
地上は何故か緑茂る草原となっており、効率重視で豆腐のような外観だったセントラルコロニーも、まるで四角い丘のような姿となっていた。
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