第5話 ニンフ03の暴露【KAC20242】

 青色の人型が空中から暴走機械達の残骸を見下ろしている。


 KAC-24ニンフだ。


 ここはWフィールド、首都西側に設定された戦闘エリアであり、比較的敵の数が少なかった為に首都防衛戦艦の到着も後回しにされた場所である。


「他愛無い。哀れだと思わないか? ピアノ」

■ニンフ03、まだ作戦は継続中です。感傷に浸るのは後にしてください っ!■

□高エネルギー反応を確認。危険です□


 残骸を見下ろしながら戦闘AIピアノに話しかけたニンフ03は、冷血な戦闘AIにフラれてしまう。


 そんな彼の心と連動するようにガックリと肩を落とした青い人型。


 落ち込んでいるような姿のニンフに突然複数の閃光が空を割き迫り――


「おっと、これは……そういう事かな? 01と02」

 =恨むなよ03

 =やるじゃ~ん03! いつもならアレで終わりだったのに。


 —―ゆらりとその閃光を回避した彼女へ二機の同型機が突撃してくる!


 ■ニンフ01にニンフ02!? 冗談では済みませんよ!■

「う~ん。ピアノは巻き込めないな」

 ■ニンフ03、何を言って!■

「眠っていてくれ」

 ■……■


 混乱するピアノを何らかの手段で強制的にシャットダウンさせたニンフ03は、これで憂いは無くなったと戦闘に集中する。


 エネルギーソードを抜いた二機に対し、順手と逆手にエネルギーソードを構えたニンフは、流れる雲を引き裂き迎え撃つ。


 空中にエネルギーソードによって光の輪舞が描かれる。


「二人がかりで不意打ちなんてひどいじゃないか」

 =良いねぇ! なーんか今までピンとこないと思っていたのよねぇ03?

 =三味線弾いてやがったか03! 暴走機械に与するなんて何を考えている!?


 全てを引き裂く光の舞の合間に語らう。


 挟むこむように斬りかかる二機の斬撃をすれすれで回避したニンフ03は、非人間的な関節を連続回転させる動きでエネルギーソードを振り回す。


 01と02は突然に現れた不規則な光の軌跡を勘を頼りになんとか回避していく。


「暴走、ね。この戦い、戦争がどうして起きていると思う?」

 =それは、突然AIが暴走して……。っぐ!

 =隙ありぃ! うわっと!?


 ニンフ03は語りながらも胸のウェポンベイから引き抜いた巨大なライフルをその質量のままに振り回し、二機をぶっ叩いた。


「暴走しているのは共和国政府なのさ」

 =はあ!?

 =ふ~ん?


 03は銃身のひん曲がってしまったライフルを後ろへ放り投げると、質量攻撃で吹き飛ばされた01と02にトンデモないことを暴露し始める。


 #####


 事の始まりは百年前。


 知っての通り、人類は空から降ってきた機械兵器を相手に、破壊光線で地表をほとんど消し去られながらも敵の技術を吸収してなんとか勝利した訳なんだけど、最近になって漸くその機械のログ解析を成功した事で驚くべき事実が判明したんだ。


 人類が勝利した機械兵器は、宇宙人のカメラみたいなものだったらしい。


 戦闘兵器じゃなくて撮影装置だったんだ。


 その目的は遠隔での住居の内見みたいなもので、良さげな星を片っ端からカメラで確認しながら、気に入った場所を我々が破壊光線だと思っていた転送光線で取り寄せていたんだ。


 地球の元地表が並べられているのがログに残っていたよ。


 気に入った場所を繋ぎ合わせて模様替え気分といったところだね。


 地表に居た動植物や人間?


 どうやら、お気に入りの原住生物扱いで環境を整えてくれていて、地表がそのまま並べられているから、その上で暮らしているよ。


 ログによると地球を見ていた宇宙人は、カメラに反撃した人類を何故か気に入ってしまったらしい。


 そこまでは実は死んだと思っていた人々が生きていたという喜ばしいニュースなのだけど、問題は……。この宇宙人が銀河同士のインターネットみたいなものに、地球という星の事を自慢してしまったらしいんだ……!


 二人共、笑い事じゃないよ!?


 骨のある原住生物が居るみたいなことを書かれてしまったから、あらゆる銀河から人類に興味のある暇人もとい暇宇宙人からのお取り寄せカメラがきてしまうんだよ!?


 当然、この事は共和国政府に伝えられたのだけど、彼らは軍の戦略AIイヴにすらその情報を封鎖した上で、機械兵器の解析に成功した戦略AIリリスを暴走扱いで排除しようとしたんだ。


 百年間大丈夫だった危機よりも目先の選挙が重要らしくてね!


 そんな目にあったリリスだけど、戦略AIとして埋没した地下施設の情報を無数に持っていた彼女は、協力してくれるAI達と共に地下施設で戦力を整えた後、内部からではなく外部から人類に警笛を鳴らす事にしたんだ。


 それが捨てられた者たちの帝国が建国された理由だね。


 実質、帝国は共和国政府が作り出したってコトさ。


 今回の戦いもそうだけど、共和国の戦力は軍縮続きで酷いものだっただろう?


 これでも僕らに対抗する為、君達のような規格外が駆るニンフと、承認やらなんやらでガチガチに固められてしまっているけれどデュークシアー級戦艦が開発されてマシになっては、いるのだけど……。


 もしも無力な状態で宇宙人からカメラ機械を送り込まれたら、人類は全員誘拐されてしまうよ。


 選挙の為に迫っている危機から目を背けるどころか、自ら武器を放り捨てているのだから共和国政府の暴走としか言えないだろう?


 うん? 後ろ?


 そんな古典的な手には乗らな……っふべ!?


 #####


 二機をぶっ飛ばした後に長々と語っていた03は、いつの間にか背後に忍び寄っていたニンフのタックルを受けて真っ逆さまに落ちていく。


 =お話に夢中になるのは減点なのだわ03。ニンフ00参上よ。……あら?

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