KAC20241 タイムリミット 

@wizard-T

タイムリミット

 神田宗太郎には三分以内にやらなければならないことがあった。




「もうちょいいいだろ、なあ」




 そんな声をかけて来る奴を振り払う事だ。




 一刻も早く、その悪魔から逃げなければならない。


 だが、身体が思うように動かない。

 と言うかだんだんと重くなる。


「う、うう……」

 必死に体を起こそうとする。だが動かない。


 どうせあと二十分もすればそいつはいなくなる。放っておいてもいいじゃないか。



「ダメだよ!」



 そこに割り込んでくる、大きな声。

「邪魔するなよ、まだ三分あるんだぞ」

「もう三分しかないんだよ!」

 まだはもうなりとか言う言葉を知るよしもない神田宗太郎だが、長年の経験からわかっている。

 もう三分もすれば、自分が何を言われるかなど。


「そんな、こと……」


 必死に言葉を紡ぐ。そして体を動かす。


 二本の槍を持った、大声の主の下へ。


「そうだよ、叩け!叩け!叩けぇ!」

 古めかしいアニソンのような事を言う奴を無視し、必死に二本の槍の主にすがり付こうとする。あと三分、いやもうあと二分かもしれない。

 毎日毎日、その槍の主を叩いて来た。それなのに文句も言わないで今日もまた、二本の槍と一本の針を持った存在へと、必死に近寄る。


 そして

「ウワーッ!!!!」


 その槍と針の主が叫ぶと共に、神田宗太郎を誘惑していた悪魔の姿は消えた。







 神田宗太郎の上に迫る、おぼろげな光。槍と針の主は未だに叫ぶ事をやめず、宗太郎を急かし続けている。


 宗太郎は肉体を動かし、地面に手をやる。


 大丈夫だ、問題ない。

 昨晩のそれが良かったのか。


 そしてまた、別の場所を押さえる。


 やはり、もう時間はない。


 だが、光は予想外にか細く、悪魔の断末魔のようだった。


 引き返せ、引き返せとどこかのゲームのように進めて来る。


 槍の主に早く行けと促されるが、手足の動きは鈍い。


 それでも、宗太郎はやるしかなかった。

 一歩一歩、普段の数分の一の速度で進む。







 そして————————————————————。






「はぁ~…………まにあったぁ……」


 神田宗太郎の勝利のため息と水の音が、空間を支配したのである。

 

 なおこの時、宗太郎には十秒しか時間は残っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20241 タイムリミット  @wizard-T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説