27クラブ

すみはし

27クラブ

ジム・モリソンも死んだ。

ジャニス・ジョプリンも死んだ。

ブライアン・ジョーンズも死んだ。

ジミ・ヘンドリックスも死んだ。

カート・コバーンも死んだ。

皆27歳で死んだ。

ロックスターは27歳で死ぬ。

27歳こそ至高の寿命なのだ。

そうだ、死のう。

と、本日27歳の誕生日を迎えた私は思った。


この間喧嘩して別れた彼氏がプレイリストに突っ込んでいった君はロックなんか聞かないが流れた部屋の中で、私はロックに死んでやろうと思った。

「バンドなんかやめなよ」って言った君とは残念ながら相容れなかったしロックなんか聴かないことはないのでスマホを拾い上げ、ハイカラさんが通るを流す。

世界の終わりに私ならどんな音楽を聴くだろう。

きっと君が知らないうるさい音楽を聴くだろう。

歪んだギターの音が私の耳を心地よく包む。

人生最後の歌を探しながら、そんなに上手くもないギターを掻き鳴らす。

ロックスターにはなれなかったけどロックからは離れられなかった。

ちょっとだけ値の張ったギターは私の宝物だから死ぬ時は一緒でもいいかもなと思ったりした。


まあ私が冒頭で死にたがった27歳は私がロックスターになれなかったロックの最後の希望。

27歳で死ねば私もロックスターの一員になれるんじゃないかっていう淡い期待。

バンドなんかやめなよって言ったのも君だけじゃなかったよ、わかってたよ。

いつまでも夢追ってても叶わないこともあるんだよって婚約指輪が光って引っ掛かって引きづらそうにベースを引いてたあの子も、地元の農家継ぐから俺もそろそろやめようかなって言ってたお前の実家普通に埼玉のサラリーマン家庭だろってドラムのあいつも、「みんな辞めるなら意味ないよ。俺はこのメンバーが良かったよ」って言ってた普段から一番辞めたそうにしてたボーカルのあいつも、みんな「バンドなんかやめなよ」って思ってただろうな。

私だけだよ、いい歳して小さいハコでバイトしながらロックに魂捧げるつもりで1日8時間もギター弾き鳴らしてたのは。

それでも私は諦めたくなかったんだよ。このまま頑張ればちょっとだけ上手くいくんじゃないかなって期待してたんだよ。ちょっとだけね。


ずっと流れるうるさい音楽は私が声を出して泣くのを聞こえないようにかき消してくれていた。

隣の部屋から今から私とバンド組んでドラムでもやればいかがですかというレベルの壁ドンが来たので泣くのをやめて音楽も止めた。

でも泣くのはやっぱりやめられなくて声を出して泣いていたら壁ドンは壁コンくらいになって、心配してくれてるみたいに聞こえた。

申し訳ないなと思いながら、ぐずぐずしながら、エレアコをアンプに繋いでヘッドフォンでギターを弾いた。

ギターの音を聴きながら、なんかこのコード進行変じゃね、と自分で作りかけの曲にケチをつけながらため息をついた。


わかってる、わかってるんだよ。

私にロックの才能がないことくらい。

私に社会に適応する才能がないことくらい。

それでも縋るのはロックしかなかったんだよ。

技術はあるけどセンスはない、一人で生きてはいけない、コミュ力はない、社会に馴染めない。

そんなやつの最後の砦だったんだよ。

その事実を改めて感じながら私は27歳で、ロックへの夢を殺すことにした。

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27クラブ すみはし @sumikko0020

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