第67話 最終試験の知らせ

 ルイスとの勉強会を終え、屋敷に帰ってきた私。

 トルメン大学校から私宛の手紙が来ていると、メイドからそれを受け取る。

 ロザリーからの手紙かしら、などと送り主の名を見て、私の表情は凍り付いた。


「お嬢様?」

「な、何でもないわ。お手紙届けてくれてありがとう」


 滅多に見せない表情をしてしまったのか、メイドが心配して私に声をかけてきた。

 私は何でもないといい、彼女を仕事へ戻す。


(どうしてチャールズさまが手紙を……?)


 ロザリーは私に変装して、トルメン大学校で学園生活をしているはず。

 私がロザリーの姿になっても、学校に溶け込めているのだから彼女だって”マリアンヌ”として振舞っているはずだ。

 私は考え事をしながら、自分の部屋に入る。

 手紙を開けずに、それを机の上に置く。

 

「ここへ手紙を送ってきたということは、正体が見破られたということ」


 ルイス以外に私たちの正体を見破れるなんて。

 よりにもよって大嫌いな相手に。


「……手紙を読んでみましょう」


 ざわついた気持ちが落ち着いた私は、封を切って読むことにした。

 チャールズの字は、とても綺麗で読みやすい文字だった。

 『愛するマリアンヌへ』なんて書かれていなければ、もっと読みやすかったのに。


 ――愛するマリアンヌへ

 元気かい? 君の花開くような笑みを見れなくて、俺は寂しいよ。

 君の妹は君のフリを上手にしている。

 俺の婚約者の手厳しい悪戯も跳ね返して、教室での立場も取り戻しているよ。この間はついに俺の婚約者を2ヶ月の停学処分にした。それについては、彼女に辛い思いをさせてしまった。俺がいながら、君の大切な妹を護れず申し訳ない。

  

(チャールズさまは、私とロザリーを見分けられている)


 私は文面を読み、チャールズが私とロザリーの入れ替わりを見破っていることを理解した。

 文面はまだ続く。


 ー君の妹は進級のため、励んでいる。

 けれど、それも限界に近づいている。

 座学は申し分ないが……、問題は音楽科の最終試験だ。

 俺の婚約者が君の妹に難題を突きつけたらしい。

 それを解決させるのは君がトルメン大学校に来て、俺と最終試験を受けることだ。

 そのことで、君と会って話がしたい。

 週末の昼、君に助けられた場所で待っている。

 では、良い返事を待っているよ。

 チャールズ・ツール・マジルよりーー


「……」


 文面を読み終えた私は、ふぅと息を吐いた。

 チャールズが私を待っている。

 週末というのは今週の事で、急を要する。


「リリアンさま……、相変わらずですのね」 


 リリアンと呼ばず【俺の婚約者】と指していたのは私がその名前を見たら震えが止まらないことを知っていたからなのだろう。

 彼女の名前を口にするだけで、学校での辛い記憶が蘇るのだから。

 

「私と違って、ロザリーでしたら難題を乗り越えるはずですのに……」


 チャールズはロザリーの活躍を知っているはず。

 でも、屋敷にいる私に手紙を送ってきた。

 最終試験はそうは行かないのだろう。


「お父様に最終試験について、聞いてみよう」


 チャールズに会うのは父の話を聞いてからでも遅くはない。

 近く父に会うのは夕食の時。

 私はその時に最終試験のこと、チャールズの手紙の答えを出すことに決めた。



 昼食。

 品数が多いが栄養バランスが整っている料理を私と父が向かい合って食べる。

 父の食事が半分を過ぎたところで、私は話題を出した。


「音楽科一年生の最終試験……、あれが一番難しかったなあ」

「内容は覚えていますか?」

「もちろん。君のお母さんと初めて合奏したからねえ」

「お母様と……、合奏」

「最終試験は”合奏”。生徒二人が組んで演奏をするんだ」

「……」


 父の話を聞き、私は食事の手を止める。

 ―― 最終試験を突破するには君が俺と最終試験を受けること ――

 チャールズの手紙の内容に嘘はない。

 リリアンがロザリーに難題を突き付け、他生徒と組めない状況にあるのかもしれない。

 ロザリーがリリアンの要求をのむことがあるとしたら、考えうる可能性は一つ。


(私の耳飾りを対価にされていたら……、ロザリーはなにも出来ない)


 ロザリーには『無くした』と嘘をついたが、賢い彼女の事だ、トルメン大学校へ向かえば真相までたどり着くはず。


「お父様、その最終試験についてお話があります」


 私はチャールズの手紙について父に話し、トルメン大学校へ行って彼と最終試験を受けることを話した。



 

  

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