第3話 身なりのいい女の子
大切な本を燃やされるという事件から二日経った。
あの後、大泣きしていることに気づいた孤児院の職員が駆け付けてきた。私はその人に泣きじゃくりながら事情を話す。
宿題のことで喧嘩になり、大切にしていた本を燃やされた。
その人は私の話を聞いて、すぐにルイスを叱った。
ルイスは「ちょっとからかったら返そうと思ってたんだ」と職員にごねていたけど、最後には「ごめん」と小さな声で私に謝った。
謝られたとしても、大事な本は元には戻らない。
「……だめね」
私はため息をついた。
濡れた本は、日の当たる窓のそばに置き、二日かけて乾かした。
本を開くと、ページがたわんでおり、インクがぼやけて読めたものではない。
何が書かれていたか、本の内容を思い出すことは出来るけど、そのぶんお母さんとの思い出は薄れてゆくような気がする。
「ごめんなさい。お母さんから貰った本、ボロボロにしちゃった……」
私は読めなくなってしまった本を閉じた。
涙がボロボロと落ちる。
ルイスに本を奪われなければ、こんなことにならなかった。
大切な本なら、取り出したりせずにずっと仕舞っておけばよかった。
私の心には後悔ばかりが積みあがる。
「ねえ、あなた」
背後から、聞いたことのない女の子の声が聞こえた。
振り返ると、そこには綺麗なドレスを着た金髪の女の子がいた。孤児院の子ではない。裕福な家庭の女の子だ。
「……泣いてるの?」
「な、泣いてない」
私は素早く服の袖で涙をぬぐう。
女の子が近づいてくる。
大切な本をボロボロにしてしまった悲しみを、初めて会った子に見せたくないと、私は強がって「泣いていない」と答えた。
私の両頬を女の子の手が包み込む。女の子の緑の瞳に私の驚いている顔が映っていた。
「泣いてるじゃない。嘘はだめよ」
「ご……、ごめんなさい」
細い指が涙の跡をなぞっている。
嘘はいけないと言われ、私はすぐに謝った。
「ちょっと前に悲しいことがあって、それを思い出しちゃたの」
私は女の子に泣いていた経緯を簡単に伝えた。
私の話を聞いた女の子は、後ろへ一歩離れた後、私にニッと笑った。
「あなたの悲しい気持ち、私の演奏で吹き飛ばしてあげる」
「えん……、そう?」
私の国で楽器は特別なものだ。どれも高価なもので、扱うのは裕福な家庭の生まれか貴族と限られる。
女の子の身に着けているドレスやリボンはサラサラと肌触りが良く、私が着ている布の服とは違う素材で繕われたものだ。それが高価なものであるのは、一目でわかる。
目の前にいる女の子は裕福な家庭で育った子。私とは住む世界の違う女の子だ。
だから、楽器を演奏すると言われても納得できる。
「そ、それでね……、リビングに戻る道が分からなくて」
今度は頬を赤らめ、小さい声で私に話しかけてくる。
笑ったり恥ずかしがったり、コロコロ表情が変わる。
「一緒に行こう」
私は女の子に手を差し伸べる。
断る理由もなかったので、私は迷っている女の子をリビングへ連れてゆくことにした。
「うんっ」
女の子は私の手を取り、二人でリビングへと向かった。
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