第25話 選ばれたい

 三人の関係を知った日から一ヶ月が経ち、オリバーがカルスーン国王に招集される。


「さて、オリバーさまが王城へ向います。三泊四日の旅となるでしょう」


 その発表がなされた後、メイド長は私たちメイドを集めた。

 ソルテラ伯爵邸から王城まで、移動が一日かかる。内訳は往復に二日、城に一日滞在といったところか。


「この中からオリバーさまに同行する者を選ぼうと思います」


 オリバーに同行するメイドは三人。使用人が三人の計六人。その六人の中にはオリバーの食事を調理するシェフも含まれている。

 今まで私は王城に行きたいと、オリバーに同行したいと思っていないため、立候補はしなかった。

 だけど、今回の【時戻り】は王城へ行き、国王がオリバーになんと言ったのか確認するのが目的だ。


「あら、エレノア。積極的でいい子ですね」


 私はこの場で挙手した。

 メイド長は私が手を挙げたことに対して、目を細め、褒めてくれる。


「手を挙げた者、前へ」


 メイド長の声がけにより前へ出たメイドは私含め七人。定員の三人をオーバーしている。


「意欲のある方たちですね」


 立候補した面々を見て、メイド長はそう評価した。

 ここから三人、どう決定するのか。

 五度【時戻り】している私は、その方法を知っている。


「では、この中から三名、私が指名します」


 メイド長は日頃の仕事態度で三名選出する。

 立候補した中には、掃除リーダー、オリバーの服や身の回りのことを担当しているメイドと私よりも技術が優れた者たちが集う。

 彼女たちの目的としては、王城へ向かい年頃の騎士や近衛兵を引っ掛けたいと私欲が含まれている。実際、それに成功したメイドが何人かいるとか。


「私はオリバーさまに同行しませんのでーー、付き人はあなたに任せましょう」

「はい!」

「着付けはあなたね。王に謁見しても恥ずかしくない格好にしてください」

「任せてください!!」


 内の二人は簡単に決まる。

 二人はメイド長お墨付きのベテランなのだから。

 最後の一人に選ばれるために、掃除、洋裁の仕事を選択せず、料理の仕事を選択した。


「では……、最後の一人ですが」


 コホンとメイド長が咳払いをする。


(これで、選ばれなかったら次の【時戻り】でーー)

 

 次の一言で私の運命が決まる。

 生唾を飲み込み、私は緊張に耐えた。


「エレノア、貴方にします」

「は、はい!!」

「貴方にはシェフの補助とオリバーさまの料理の配膳をお願いします」

「分かりました! ありがとうございます!!」


 よかった。選ばれた。

 この選出には配膳の仕事に穴があった。立候補したメイドの中で補うことはできるものの、シェフと共に働いたことのある者はいない。

 私はそこに賭け、料理の仕事を選び、給仕の仕事を覚えつつシェフと信頼を深めていったのだ。


「貴方たちは明日からオリバーさまの荷造りと、滞在スケジュールを頭に叩き込んでもらいます。その間はエレノアを除き、メイドの仕事は免除いたします」

「「はい!!」」


 三人の返事が重なった。

 私だけ仕事が免除されなかったのは、配給するパンの仕込みと調理をしなければならなかったからだ。


「話は終わりです。各自、仕事に戻りなさい」 


 パンと、メイド長が自身の手を叩いた。

 その音を合図に、私たちは元の仕事に戻る。

 

(【時戻り】の目的が果たせそうで良かったわ)


 最後の一人に選出され、私はほっと胸をなでおろした。

 


 メイド長に選ばれてから二日後、私たちはソルテラ伯爵邸を出た。

 【時戻り】を始めて二度目の外出だ。


 二台の馬車が街道を一列に走る。

 私は後ろの馬車に乗っており、その前にオリバーと付き人のメイド、戦闘力のある使用人二人が同乗している。


「エレノア」


 着付けを担当する先輩に声をかけられた。


「あなた、貴族や騎士の殿方に興味ある?」 

「そうですね……」


 着付けの先輩の目的は、貴族や騎士に見初められ、幸せな結婚をすること。

 彼女は、没落した貴族の出で華やかな人生に憧れている。この遠征を出会いの場と思っており、仕事の意欲は低いほうだ。

 私の目的は、オリバーの運命を変えることであり、出会い目的ではない。だけど、ここできっぱり興味がないと答えてしまうと、先輩の機嫌を損ねそうだし、話を合わせても後々面倒だ。

 

「オリバーさまの料理を提供することで頭がいっぱいなので、他の方とお話する余裕は私にはありませんわ」


 考えた末、私は与えられた仕事が手一杯だと答えた。


「ふーん、じゃあ化粧はどうする?」

「王城に滞在する際はお願いしたいです」

「わかった。明日の朝、やってあげるわ」

「ありがとうございます。お願いします」

「その代わり、顔のいい騎士さまがいたら、私に教えるのよ」

「はい。その時があれば……」


 やっぱり、先輩はこの遠征に人生をかけている。

 邪魔はせず、協力しようと私はメラメラと出逢いに情熱をかけている先輩を横目にそう思った。


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