残り時間

キザなRye

第1話

 俊輝しゅんきには三分以内にやらなければならないことがあった。今ここで、すぐにやらなければ何人が犠牲になるか分からない。



 今から約20年前、世間には知られていないところで事件は起こっていた。新宿駅の駅員がホームに置いてあった不審な紙袋を見つけたのである。変に動かすことは危ないと警察に常々言われているので見つけた駅員は無線で応援を頼んで他の駅員にこの事実を警察に伝えるように言った。不審物を見つけた駅員はその場で紙袋の様子を監視していた。

 数分して応援を頼んだ駅員がホームに戻ってきて

「10分くらいで来るそうです」

と耳打ちした。不審物を見つけた駅員は軽く頷いて

「ありがとうございます」

と言い、警察が来るまでの間は紙袋を監視していた。

 予定通り10分くらいして警察がやってきた。あまり目立つといけないので制服を着た警察官ではなく、私服の警察官だった。どうやらおおよその事情は理解しているようで警察であることを明かしてすぐに紙袋の中を警察官が見始めた。紙袋を見つけた駅員は不自然に置かれた紙袋を見つけただけであって中身をきちんとは見ていなかったのでそのときに初めてちゃんと中身を見た。

 紙袋の中には黒い機械ようなものが入っていた。これだけで駅員は少し身構えてしまう。警察官は慎重にその黒い機械に触れてこれが一体何なのか、調べ始めた。調べていくと複数の色のコードらしきものが見えた。駅員はドラマやアニメで見るような爆弾に段々見えてきて恐怖を感じた。それを認識したのか、警察官は駅員に

「大丈夫です、心配しないでください」

と声をかけた。

 私服警察官が紙袋を調べている間に爆弾処理班が駅に着いた。爆弾処理班の俊輝は新宿駅での爆発は本当に笑えないと少し心拍数が上がっていた。完全防備の姿でホームには行けないので駅員室で待機していた。

 ホームでは私服警察官が紙袋の中身についての精査を行っていた。紙袋の中の機械はどうやら爆弾ぽいことまでは明らかになっていた。あとはこれを容易に動かしても良いのかどうかを調べることが彼に求められていた。機械を少しだけ分解する形で上部を取って開いてみると水銀スイッチのような水平装置は付いていなかった。紙袋を調べていた警察官は駅員に声をかけてから紙袋を持って駅員室に向かった。

 駅員室では爆弾処理班の俊輝が紙袋の到着を待っていた。私服警察官は慎重に、しかし急いで駅員室に紙袋を持って来た。大まかな情報くらいは俊輝も知っていたが、爆弾の細かいところまでは知らなかったので実際に調べた警察官から話を聞いた。俊輝は話を聞いておおよその爆弾の機構の想像は付いた。

 俊輝は紙袋から爆弾の装置を取りだし、慎重に上部を取って機構を確かめた。どうやら俊輝の想定通りの構造だったようである。無言で黙々と俊輝が作業する姿はどこか頼もしかった。俊輝がさらに分解していくとデジタル時計のようなものが表われた。赤字で書かれたその数字は3:00を示し、段々と減っていった。俊輝は三分以内に解体しなければならなかった。いくら構造が分かっているとはいえ、ここまで短い時間を示されていると俊輝も焦ってしまう。それでも周囲には平常心で作業しているように装っていた。

 その後も俊輝は黙々と作業を続け、赤字での表示が0:30になったくらいで俊輝は最後のコードを切った。すると表示されていた数字が消え、爆弾は完全に止まった。俊輝を含め、周りにいた駅員ら全員がホッと胸をなで下ろした。

「これで大丈夫です」

俊輝がそう言うとその場に居た警察官たちは帰る準備を始めた。俊輝は解体した爆弾を元々入っていた紙袋に入れ直した。私服警察官が一礼し、彼に続いて会釈をしてから駅に来ていた警察官は帰っていった。

 公にはせずに秘密裏に行われた爆弾処理を経て平穏な日常が再び戻った。こうやって日々の安全は保たれる。

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