第71話 西のB級探索者、鉄塊の武史
翌日。
俺は
入り口のすぐ脇、細い通路に入ると警備の探索者に守られている入り口がある。その中には上階のマンションへ入るエレベーター。そこで、約束通り武史が待っていた。相変わらずの黒い鎧に馬鹿でかい剣を背負って。白い歯をニカリと見せて武史が元気の良い声を上げた。
「お〜! 来たなヨッさん! 待ってたで!」
「は? ヨッさんってなんだよ?」
「親しみを込めてヨッさんや! あだ名の方が呼びやすいやん?」
ケラケラと笑う武史。妙に距離の近いヤツだな。
「ヨロイ君」
リレイラさんが俺の両手をそっと握る。彼女は複雑そうな顔をしていた。俺の事を心配してくれているような、だけど信頼してくれているような顔。それに答えるように、その手を握り返す。
「行って来るよ」
「うん……気を付けてね」
昨晩、中野ダンジョンについては相当情報を仕入れた。急遽の探索になったが大丈夫。そうリレイラさんに告げて、彼女に背を向けると武史が苦笑しながら顔を背けた。
「ちっ、ええなぁ〜。オレなんかなぁ……ホンマ、泣けるで……」
「あんまり見るなよ」
恥ずかしいから。
「はいはい。邪魔して悪かったっての」
武史はブンブンと顔を振るとキリッとした表情で俺達を見た。
「じゃ、行くでヨッさん! 魔族のネーさんもヨッさんは俺がしっかり守ったるからな!」
リレイラさんへ別れを告げ、俺達はエレベーターに乗る。
「10階」のボタンを押すと、エレベーターが動き出す。ダンジョンに挑むのにエレベーターから入るなんて新鮮だ。だが、中野ブロードウェイは下層階が商業地区。電気が通っていても不思議じゃない。
ゆっくり進むエレベーターは、最上階の10階まで15分ほどかかる。これは中野ダンジョンの歪みのせいらしい。恐らく、時空の歪みとかそういうものなのだろう。
……。
2階、3階、4階……階数が進む度に心臓の鼓動が増して行く。未知のダンジョン、未知の敵。これは……。
「なんや、緊張しとるんか?」
横目で俺を見た武史がおどけたように言って来る。
「いや、ワクワクしてる」
「ワクワク? ははは! やっぱりオモロイ男やなアンタ! 六本木や渋谷の時もそんな感じやったんか?」
「なんだ? 俺達の配信知ってるのか?」
「知ってるも何もめちゃくちゃ有名やで。俺も六本木攻略のアーカイブ見てから天王洲アイルの配信を追っとる。
「武史も配信者なのか」
「せやで。そういやちゃんと自己紹介してなかったな。俺の探索者名は『鉄塊の
鉄塊の……。
……。
……。
いいな、それ。
「いい探索者名だな。2つ名というのはとても良い」
「せやろ!? いや〜名前決めるのに苦労したんや! 1週間もかかってなぁ」
照れ臭そうに頭を掻く武史。一度挑んだとはいえ、これからダンジョンに向かうのにリラックスしている。奢りではなく自然体。これは……中々やりそうだな。
「以前B級の槍使いと戦ったことがあるが……武史の方がやりそうだな」
以前戦った九条商会の鳴石はその素振り、風格から「強者」を演出していた。いや、演出していたというより、強者であろうとしていた感覚がした。そういうヤツは隙がデカい。
上手く言葉にはできないが、実力以上を見せようとすることに慣れると、人は自分の力を過信する。武史にはそれが感じられない。
「ホントか!? まぁこれでも登録者数80万人抱えてるからな〜! 日々精進は怠っとらん! B級に恥じん実力を付けたいもんやで!」
両手を組んでうんうんと頷く武史。彼は急に目をギラリと光らせると俺を見た。
「だが……俺には分かるで? ランクは違えどヨッさんの方が実力は上。他の探索者達はランクでしか物を測っとらん。渋谷の件もジークリード達がいたから攻略できたと思っとるヤツもおる。アンタが中心やったにも関わらず……や」
武史はエレベーターを殴りつけると苦虫を噛み潰したような顔をした。
「伊達のオッサンの反応を見たやろ? アレが今の探索者の認識や。正直めちゃくちゃ腹立ったで。ヤツらは本質を見とらんのや。そうは思わんか?」
「うぅん……俺は別にランクとかに興味無いからな」
答えると武史がニヤリと笑い、俺を指差した。
「そこや。アンタのそういう所がオレは好きや。生粋の探索者。タイプは違えど
「やめてくれ。体が痒くなる」
「そんな
ベルのような音と共に扉が開く。その先にあったのは石壁の広い空間、マンションの面積は超えているな。それに加えて現代の建造物と異なる意匠。異世界の建物がそのまま転移したタイプか。
「歪みの話は聞いとるやろ? この中野ブロードウェイは変なことになっとるらしくてな。外観とダンジョン内の広さは全く関係ないんや。大学のセンセ達も頭抱えとるらしいで」
「だが、歪み以外は王道なダンジョン。正統派な攻略で対応できるはずだ」
「よう勉強しとるやんけ。そう、ストレートなダンジョンや。だから難易度自体はさほど高くない。あの
「分かってる。気合い入れて行くぞ」
「案内は任せとけ! ヨッさんの攻略法、しっかり学ばせて貰うで!」
それぞれの武器を構え、俺達はダンジョンの攻略を開始した。
―――――――――――
あとがき。
次回は武史を交えた戦闘回です。武史のスキルが判明します。そしてその次がボス戦配信回。お楽しみに!
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