第34話 461さん、リレイラさんとデート?する。
〜探索者 461さん〜
秋葉原の裏通りにある
昨日、品川ダンジョンを攻略したとリレイラさんに連絡した時、彼女に「会わないか?」と言われた。
彼女は今日休みだからと言っていたが……休みの日に会うなんて初めてだ。何かあったんだろうか?
「ヨロイ君〜!」
振り返ると
「はぁ……はぁ……待たせてすまない。ちょっと準備に時間がかかってしまって」
「いや、いいですよ。というか、俺装備で来ちゃいましたけど……なんかすみません」
「ふふっ」
リレイラさんがマジマジと俺を見つめた。紫の髪が風に揺れる。
「私はその格好が1番好きだな。ヨロイ君らしい」
彼女が笑う。その頭に生えた羊のような角が見えて、一瞬昨日の男のことを思い出した。
「どうしたんだ?」
不思議そうな顔をするリレイラさん。なんだか申し訳ない気がして被りを振った。昨日のことを頭から追い出す為に。
「いえ、なんでも無いです。私服姿も新鮮でいいですよね。リレイラのスーツ姿しか見たこと無かったんで」
リレイラさんの顔が固まった。
ん? なんだろうこの表情? 笑顔と真顔の中間みたいな、なんとも言えない感じ。こんな顔のリレイラさんは初めてだな。
「あ、ありがとう。ヨロイ君とオフで会う用に……」
「オフで会う用?」
「い、いやいやいやいや! なんでも無い!気にしないでくれ!」
なぜか顔を真っ赤にするリレイラさん。どうしたんだろ?
リレイラさんから頼まれていた通り、ダンジョン攻略用のアイテムを買うという流れになった。2人でショップのある通りへと向かう。
「お、461さんじゃん。今日めっちゃ良いアイテム入ったよ。見てってくれ」
教会を通りすぎた所で顔馴染みになったアイテムショップの店員に話しかけられた。
「良いアイテム?」
「ほら、ショックホーネットの針」
店員が手のひら大の針を取り出した。
「あぁ。刺したら相手を麻痺状態にできるアイテムか」
「お、よく知ってるねぇ。回数制限はあるがこの先端に触れたらどんな動物も数時間は動けなくなるのさ。オススメだよ!」
「値段は?」
「5万円!」
ショックホーネットの針はその名の如くスズメバチの様な見た目をしたモンスターの針だ。この針には生物を麻痺させる毒が蓄えられている。刺された者は全身に電撃が走ったような感覚がするとか。
俺は鎧のお陰で直接刺されたことはないが強力な毒なのは間違い無い。
だけどなぁ……5万……5万かぁ……。
「サイズのデカいモンスターには1本じゃ足りないし、小型に使うにしても中々当てるのが難しい。しかも回数制限付き……う〜ん……」
「頼むって! 2000円オフにするからさ〜」
「売れねぇから知り合いに押し付けようとしてんだろ絶対……」
「そんなこと言わずにさ〜ゆっくり考えてくれよ〜。な?」
そう言うと店員が他の客に声をかけた。
使い道が無い訳じゃないけど今すぐ必要かと言われるとなぁ。
「なぁヨロイ君。それは素材としても使えるのか?」
リレイラさんが横から顔を覗かせる。
「使えますよ。ただ、それでも回数制限有りの麻痺効果が追加されるくらいです。それなら単体で使用した方が金が掛からない」
「ふぅん……その回数制限は何回くらいなんだ?」
「このサイズの針だと……12回程度、ですかね」
「じゅ、12回で4万8千円……か。うぅん1撃4000円……」
リレイラさんがゾッとした顔でスマホで検索を始める。
「う、メリカリの方が高いくらいだ。そうか……消費アイテムでもそれくらいするのか……」
2人でスマホと商品を見比べていると、先程の店員が戻って来た。
「どうだい? 買ってくれる気に……って。その角……管理局の方もいらしたんですか?」
ん?
店員の声が妙によそよそしくなる。
「そうだが、今日は休みだから」
「え、あ、はい……それなら、良かった、ですけど……」
急に店内に戻って行く店員。中を見てみると、奥で店長と何かを話していた。
「……」
リレイラさんは寂しそうな顔をしていた。しかし、俺の視線に気付くとすぐにいつもの顔に戻る。
「どうしたヨロイ君?」
「あ、いや……」
うぅん……この前冒険家Bで飯食ったのも、魔族がいても大丈夫な店だからって言ってたよな。やっぱ魔族に苦手意識持ってる人多いんだな。このまま連れ回しても気を遣わせるだけなんじゃ……。
待てよ。
あそこなら大丈夫か。
リレイラさんに紹介して貰ったあの店なら。
◇◇◇
「いらっしゃいませ!」
「いっしゃいっス!」
秋葉原で武器を取り扱う店。「方内武器店」に入ると方内兄妹の元気の良い声が聞こえた。
「あ! 461さん!」
「しょっちゅう来るッスね〜」
「良いじゃん客なんだから」
「461さんはなぁ〜」
「中々買わないッスからねぇ〜」
「くっ……それを言われると言い訳できねぇぞ」
「アレ? 今日は連れもいるッスか? アイルちゃん?」
方内妹が入り口の所をジッと見つめる。なぜかリレイラさんはすぐに店内に入って来ない。
「も〜! 早く入って来るッスよ〜!」
方内妹が扉から外を覗く。
「あ、あれ……?」
方内妹の反応……これは……不味かったか?
しかし、心配とは裏腹に方内妹の元気な声が聞こえた。
「誰かと思ったらリレイラさんじゃないッスか! いつもスーツだったんで分からなかったッス!」
「……今日はオフでな。その、普段と違う服だから恥ずかしくてちょっと入るのを躊躇ってしまった」
「え〜? 全っ然恥ずかしくなんか無いッス! リレイラさん超絶美人だし、そんな綺麗な格好してたらみんな振り返るッスよ!」
「そ、そうかな……」
「ほら早く早く! お兄〜! お茶入れるッスよ〜!」
「はーい」
方内妹がリレイラさんの背中を押して店内へ。方内兄がすぐにお茶と茶菓子をカウンターに用意した。
……。
そこからダラダラと方内武器店で過ごしてしまった。
最近入荷した武器の話や秋葉原の近況……ダンジョン関連の話ばかりなのに、リレイラさんは俺達の話を楽しそうに聞いていた。そうして話している内に、いつの間にか話題がリレイラさんのことへと映っていた。
「リレイラさんって何歳ッスか〜? ちゃんと聞いたことないッス! 興味津々ッス!」
「224歳だな」
「え" !? ま、魔族って長生き何スねぇ……」
方内妹がビシリと固まる。魔族のことあんまり知らないのか。
「でもあれですよね。人間で言うと何歳とかありませんでしたっけ?」
お、兄の方は少し詳しいな。
リレイラさんが恥ずかしそうに俯く。なんだか……今日の彼女はすごく新鮮だ。いつものキリッとした感じが無いというか……守りたくなるような、そんな雰囲気がある。
「224歳はだな……人間で言うと28歳ほどだ」
「ヘ〜! なんか羨ましいですね!」
驚く方内兄。リレイラさんの様子はすっかり元通りになっていた。
「まぁ、そうは言っても事故に遭えば死ぬからな。それほど人と変わらないよ」
「だけどこんなに美人で長生きって羨ましいッス〜!」
リレイラさんの周囲をチョロチョロと動き回る方内妹。この2人は大丈夫そうだな……ここに来て良かった。
「そう言えば、リレイラさんと方内兄妹ってどうやって知り合ったんですか?」
「ん? ああ。この2人の親が探索者でな。私が担当だったんだ」
「母さんが引退した後もリレイラさんが様子見に来てくれたんですよね」
「店始めた時も探索者紹介してくれたッス! 優しいッス!」
「や、やめてくれ……恥ずかしい」
狼狽えるリレイラさん。俺が知らない所で彼女も色々な事をしていたんだな。
出会った頃のリレイラさんからは想像できないな。めちゃくちゃ厳しかったからなぁ。
リレイラさんに目を向ける。彼女は、方内妹にやたらと質問されて苦笑していた。
でも、12年前は俺を死なせないように必死だっただけなのかもな。沢山褒めてくれたし。
今の彼女を見ていたら、そう思えた。
―――――――――――
あとがき。
次回、リレイラさんの身に何かが……?
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