第27話 地底湖

「フギャアアアアアアアアア!?」


「グルルルルフルルルル!!」


 響くナーゴの声、途中まで降りていたハシゴを飛び降り、ローリングで衝撃を受け流す。


 目の前に映ったのは、モンスター「アクアドレイク」がナーゴの首を加え、ブンブンと振り回している所だった。



「な、何あれ?」


「アクアドレイクだな。アイツは餌をああやって振り回してバラバラにしてから食うんだ」


 ヌルリとした皮膚にヒレのような翼。しかし見た目はファンタジーのドラゴンという何とも不思議な造形。リレイラさんがここにいるとは言ってたが、地下に潜ってすぐ遭遇するなんてな。


「ヒィィィィ!? 早く助けて欲しいにゃあ!!」


 振り回されるナーゴが必死に両手のクローを振り回す。1本の爪がアクアドレイクの顔に傷を付ける。


「あ」


「グルルルルゥ……っ!!」


 みるみるうちにアクアドレイクの鼻面にシワが寄る。


「お、怒ってるわよ!? ナーゴが食べられちゃう!?」


「助けるか」


 右手を握りしめ、魔法を発動する。品川ダンジョン入り口で発動した魔法を。


 握り込んだ手のひらに薄ぼんやりと光が灯るのを確認してからアクアドレイクへと向かう。


「グル!?」


 俺達の存在に気付いたアクアドレイクがナーゴを上空へ放り投げた。


「にゃ!?」



「カアアア──!!」



 アクアドレイクの喉元にある冷気袋。そこから白いモヤを溢れ出す。


「アイル。ウォーターブレスが来る」


「言ってたヤツよね? 任せて!」


 アクアドレイクのガパリと開いた口。そこから水と微細な氷が収束した水のレーザーが照射される。直撃すれば真っ二つにされるほどの高出力で。



 しかし。俺には今、それを打ち消せるヤツがいる。品川に挑むと決めてから散々アクアドレイクの攻略法を仕込んだ頼れる相棒が。


 アイルが杖を構えると、ホーラの杖に魔力が収束していく。俺の背後から冷気を感じる。



氷結魔法フロスト!!」



 アイルの声と共に目の前で猛烈な冷気が巻き起こる。


「グル!?」


 パキパキとアクアブレスが氷付き、糸のような形状のまま地面へと落下した。



「うおおおお!!!」



 右手に握り込んでいた魔法を投げ付ける。「照明魔法ルミナス」の光の球がアクアドレイクの目の前で眩い光を放つ。


「グルゥゥゥゥゥゥ!!?」


 突然目の前が光に包まれたことでアクアドレイクが顔を背ける。その隙を突いてドレイクのヌルリとした腹部にショートソードを突き立てた。


「グルアアアアアァァァァ!!?」



「ぬっ……おおおおおお!!!!」



 突き刺した剣先を無理矢理前へと進める。ヤツの肉を斬る感触を感じながら、アクアドレイクの腹をさばく。



「グギャアアアァァァァァァァァ!!?」



 アクアドレイクは、断末魔の声を上げる地面へと倒れ込んだ。



「ニャアアアアアァァァァ!!?」



 空中から降って来るナーゴ。咄嗟にショートソードを捨て、着ぐるみ猫を受け止めた。



「にゃ!? 助かったぁ〜」


「はぁ〜良かったわ……」



 ナーゴはフルフルと震えていた。流石に恐ろしかったか。


「ま、これからはもうちょっと人の話を聞いてから先に」


「うにゃあああん♡ 2人とも助けてくれてありがとにゃ♡」


 俺の腕の中で高速でウネウネ動く着ぐるみ猫。



 コイツ。全く懲りてないな……。




◇◇◇


照明魔法ルミナス


 強めに魔力を調整した照明魔法を投げ、光の球体が辺りを照らす。ハシゴを降りた先にあったのは広大な地下空間だった。


 そこに広がる地底湖。


 それを分割するように、細い石畳みの通路が迷路のように奥へ奥へと伸びていた。


「至る所に水門が見える。アレがこのダンジョンのギミックか」


 よく目を凝らすと貯水池の途中で通路が途切れている。その手前の水門を開けて進むのか。


 3人で通路を進む。通路のすぐ側まで迫った水。水中を覗き込むとバイトフィッシュの群れが泳いでいるのが見えた。


「うわ〜これ落ちたらアイツらに襲われるってことよね」


「ヒイィ!? 怖いにゃあ!!」


 ブルブル震えるナーゴの背中をアイルが慰めるように撫でる。しばらく歩いて水門の所までやって来た。



「このハンドルで水門を操作するのか」


「あ、水の中に階段が見えるにゃ」


「水を抜かないと進めないってことね」



 そう言いながら杖を構えるアイル。お、これはこの仕掛けの意味・・をよく分かってる感じだな。


「アイルちゃん。何してるのにゃ?」


「ふふふ……ポイント稼ぎよ。ヨロイさん。水門開けて」


「おお。行くぞ」


 ハンドルを回すと、ゴゴゴという音が鳴る。それに連動するように水門が開いて行く。



「あ! 水が抜けて行くにゃ!」


「見ててよナーゴ」


 水門から水が流れて行く。しばらく待っていると水は完全に抜け切り、先ほどまで泳いでいたバイトフィッシュの群れがピチピチと地面の上を跳ねる。


電撃魔法ライトニング!!」


 アイルが電撃魔法を放つと、地面を跳ねていた魚達へと一気に電撃が流れる。



「ギ!? ギュギュギュウゥゥゥゥ‥…」



「やるじゃん」


「ふふん! 私はね、こういう効率が良いことは絶対忘れないのよ!」


 胸を張るアイル。バイトフィッシュ達から溢れ出した大量の光が彼女のスマホに吸収される。


『レベルポイントが150ptまで蓄積されました』


 スマホから流れる機械音。アイルは鼻歌混じりにスマホを開くと、俺に見せて来た。


「ねぇねぇ! 六本木ヒルズの残りと合わせて150ptだって!! 今度はどれ解放したら良いと思う!? この前残しておいた魔法攻撃15%増が良いかな?」


 アイルのツインテールがヒョコヒョコ揺れる。なんとなく、彼女が成長を楽しんでいるように見えた。


 こうやって自分で工夫するのは良いことだな。俺も初めの頃は色々試したもんだしな。


 アイルのスキルツリーを見ると、魔力15%増に各種属性魔法の強化呪文。それとスタミナ15%増のスキルが解放できるようになっていた。


「これならなんでも大丈夫じゃないか? 好きなの解放しろよ」


「そう? ど〜しよっかな〜」


 スキルツリーを眺めるアイル。しかし、あるアイコンまで行くと、彼女の顔が急に真剣になった。


「ねぇ? このさ、氷結魔法の中級クラスってどうかな? 特にここなら役に立つと思うんだけど……」


「どうしてそう思った?」


「今日の戦闘2回とも氷結魔法が活躍したでしょ? きっとボスのブリッツアンギラにも効くと思うの。ブリッツって付くぐらいだから電撃は効かないと思うし」


「確かにそうだにゃ。ブリッツアンギラは電撃攻撃をしてくると聞いたにゃ!」


「でしょ? だから……」


 上目遣いでこちらを見て来るアイル。なんだかその様子が親に玩具をねだる子供みたいな、不思議な幼さを感じさせた。



 ……自分の中では答えは出ているが、イマイチ確信が持てないのかもしれないな。ここは背中押してやるか。



「俺は良いと思うぜ」


「ホント? じゃあ解放しちゃおっと!」


 アイルがスマホをタップする。すると、青白い光がスマホから発せられ、彼女の全身が青色に光り輝いた。


『中級魔法「氷結晶魔法クリスタルブラスト」を解放しました』


「やった!! これで私も中級魔法が使えるわ!」


「あそこにも水門の仕掛けがあるだろ? 試してみろよ」


「うん!」



 3人で水が抜けた通路を通り。階段を登る。すると目の前にもう一つ同じような水門ギミックがあった。水が貯まり向こうまで渡れない場所が。


「よし……やってみるわ」


 アイルがホーラの杖を構える。彼女の魔力と共に白い冷気が渦を巻く。


「「氷結晶魔法クリスタルブラスト」!!」


 アイルの杖から無数の氷が弾丸のように飛んでいく。それが物凄い音を立てながら水中へと撃ち込まれた。


「にゃ! 氷の結晶を撃つ魔法なんだにゃ〜」


「待って。多分……これだけじゃないわ」


「にゃ?」


 2人が水面を見つめる。氷の結晶が撃ち込まれた水面がパキパキという音を立てながら氷付いて行く。


「にゃにゃ!? 水が凍って行くにゃ!」


「なるほどな。結晶が直撃した周辺から凍らせる魔法みたいだ」


 アイルが恐る恐る氷の上に乗る。深い水溜まりはしっかりとした氷の足場になっていた。


「結晶が水中に撃ち込まれてから凍るから、かなり深いところまで凍らせることができるみたい」


「お、じゃあここは水門解放しなくても渡れそうだな」


「超優秀な魔法を手に入れてしまったわね〜!」


「アイルちゃんすごいにゃ!」


 飛び跳ねるアイルに、一緒になって喜ぶナーゴ。2人とも氷の床で足を滑らせ、アタフタしながら俺に掴まって来る。



「ねーねー! 私すごい?」



 腕に抱き付いたままアイルが俺を見る。その嬉しそうな顔。




 それを見て俺は……。




 なんだか、こういうのも悪くないと思えた。





―――――――――――

 あとがき。


 地底湖を進む461さん達。果たしてその先に待つ物とは……? 次話後半は配信回です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る