第26話 品川ダンジョンへ

 午前10時30分。


 装備を整え、俺達は品川ダンジョン前に集合した。


「にゃにゃっ! ワガママ言ってゴメンにゃ〜」


 ナーゴがクネクネと気持ちの悪い動きで手を合わせる。集合時間はナーゴの強い要望でこの時間になった。なんでもブリッツアンギラは活動時間が決まっているらしい。


 ブリッツアンギラは俺も初めて戦うボス。楽しみだな。


 だが、それにしても……。


「うにゃ? 見つめられると恥ずかしいにゃあ♡」


 ナーゴを見ると、クネクネした動きが高速ウネウネになり、その動きの気持ち悪さに拍車がかかった。


「なぁ。なんでそんな動きしてるんだ?」


「ナーゴはイラ可愛い動きも人気の1つなのよ。普通のゆるキャラには無い魅力とか言って」


「イラ可愛いはショックだにゃ! ナーゴはちゃんと可愛いにゃん♡」


「でもそのおかげでナーゴはおじさん達にも人気あるのよね〜?」


「うにゃにゃ〜♡ アイルちゃん頭ナデナデしないでにゃあ〜♡」


 笑顔のアイルがナーゴの頭を撫でる。その度にナーゴはうにゃうにゃ言いながらクネクネする。



 見ているとなんとなくイラッとするこの感情。これがナーゴの魅力なんだろうか?


 でもそういう魅力もあるんだなぁ。俺にはちょっと分からないぜ。



 木々の生えた道を進み、旧水族館後を迂外する。しばらく歩くと柵に囲まれた階段が見えた。


「よし。こっからは品川ダンジョンに入るぜ。2人とも気合い入れろよ」


「分かってるわ!」

「分かったにゃん♡」


 階段を登り、俺達は品川ダンジョンへと足を踏み入れた。




◇◇◇


「お、これは本格的だな」


 足を踏み入れて見えたのは石造りの水路。しかし、部屋の奥まで見渡すことはできなかった。


 辺りを見回しても光が差し込むような場所は無い。まるで地下施設のようなダンジョンだな。


「暗いわね……」


 アイルが奥を覗き込むように目を細める。しかし、諦めたのか鞄の中を漁り出した。取り出したのは配信用ドローン。


 彼女がフワリとそれを浮かせると、ナーゴもドローンを飛ばす。2台のドローンのライトが周囲を照らした。


「う〜んドローンのライト機能使っても光源としては心許ないわね」


「ナーゴのドローンと合わせてもまだ暗いにゃ」


「俺が照明魔法ルミナスを使う」


 俺の探索用スキル、照明魔法ルミナスを発動すると手のひらから光の球体が現れる。それを掴んで天井に向かって投げる。照明魔法の球体フワフワと空中を漂い、天井付近でピタリと止まった。


 眩い光を放つ球体がダンジョンのフロアを照らす。真っ暗だった部屋の奥が見渡せるようになった。


「便利だにゃあ」


「実際便利だぜ。応用も効くしな」


「1部屋ごとに光源がいるこの感じ。配信はボス戦だけにするしか無いわねぇ……」



 アイルがキョロキョロと辺りを見回す。照明魔法に照らされ、今の部屋の造形はハッキリと分かった。


 俺達がいるのは六角形のフロア。その至る所に水が貯められており、魚がその中を泳いでいるのが目に付いた。


「にゃ? なんか釣り堀みたい」


「この魚は無害かしら? モンスターじゃない?」


 アイルが杖をちょんちょんと水に浸ける。すると、先ほどまで無害そうだった魚達かキバをギラリと光らせる。その内の1匹がアイルの杖に噛み付いた。


「ギュッ!!」


「ひっ!? やっぱりモンスターじゃない!」


「クランチフィッシュだな。一回噛み付くと中々離れない……代々木にいたバイトフィッシュの仲間だな」


「早く言いなさいよ!?」


 ブンブンと杖を振るアイル。しかし魚は中々離れない。腰からダガーを抜き、クランチフィッシュを突き刺さした。


「ギュギュウ……っ!?」


 生き絶えたクランチフィッシュ。杖から口を離して落ちる魚を、ナーゴがヒシっと掴んだ。


「もったいないにゃ。クランチフィッシュはフライにすると美味しいのにゃ」


 背中の皮袋に魚を入れるナーゴ。それを見たアイルは困惑したように袋を見た。


「ちょっ、そんな袋に入れてたら腐らない?」


「にゃ? コイツはフリーズブローの浮袋で作っであるにゃ! 中はヒエヒエ! 鮮度長持ちにゃ!」


「フリーズブローって河豚フグみたいな魚型モンスターだったよな。今度俺も使ってみるか」


「クーラーボックス代わりにオススメにゃ♡」


「変な所で意気投合しないでよ……」



 ……。



 さらに先を進む。1階は水面にさえ近寄らなければ戦闘が回避できたが、2階はそういう訳にはいかなかった。魔法障壁によって壁一面に水が張り巡らせてあるフロア。そこはまるで水族館の透明トンネルのような部屋だった。


「シャアアアアアア!!!」


 水の壁の1つから頭部に剣が伸びているモンスター「ブレイドシャーク」が飛び出して来る。咄嗟にアイルとナーゴを突き飛ばし、ブレイドシャークの頭部をショートソードで弾く。


 軌道を変えられたブレイドシャークは反対側の水壁に吸い込まれる。水中で再び向きを変え、俺達を狙っているのが見えた。


「アイルは氷結魔法の準備しろ!」


「了解っ!」


「な、ナーゴも戦うにゃっ!」


 ナーゴが着ぐるみの両手を上に向けると、その3本の爪がシャキンと伸びる。


 ……ナーゴの武器はクロー系か。


 クロー装備は敵の捕縛能力が高い。なら、ナーゴを使った方が早いな。


「ナーゴ。次ブレイドシャークが出たらクローで止めろ」


「にゃ!? わ、分かったにゃ!」


 水中体勢を変えたブレイドシャークが再び俺達を狙って飛び出した。


「シャアアアアアアアアアアア!!!」


「にゃああああ!?」


 ナーゴが両手を突き出す。クローの隙間。そこにブレイドシャークの剣を絡めとる。そしてその凶暴な牙を抑えながら、なんとかナーゴは鮫の突撃を防いだ。


「シャアアアアア!!!」


「ヒィィィィ!? 怖すぎるにゃあ!?」


 アイルをへと視線を送る。彼女は頷くと、「氷結魔法フロスト」を発動する。


「シャッ!? ア"ッ!?」


 氷つく鮫。その体目掛けてショートソードを振り下ろす。


「うおおおおおっ!!」


 バギリという音と共に、ブレイドシャークは粉々に砕け散った。


「やった! 倒せたわねヨロイさん!」


 飛び跳ねるアイル。それと対照的にナーゴはヘナヘナと座り込んだ。


「し、死ぬかと思ったにゃあ〜」


「今のナーゴの動き中々良かったぜ」


「にゃにゃ!?」


「そうね。私も魔法当てやすかったし」


「そうかにゃ!? いや〜照れるにゃあ〜」


 ナーゴは照れ臭そうにクネクネ気持ち悪い仕草をすると、急にキリッとした顔付きになった。というか表情変えられるとか無駄に凝った着ぐるみだなコイツ。


「ヨシ! 戦闘はぜ〜んぶナーゴに任せておくのにゃっ!」



「調子いい奴だな……」

「可愛い〜♡」



◇◇◇


 水中から襲いかかって来る魚型モンスターを倒しながら俺達は目的の地下1階へと辿り着いた。目の前には地下へと続くハシゴ。


「ここがリレイラの言ってた地下への道ね」


「ここからが本番だ。慎重に行こうぜ。まずは深さを……っと」


 転がっていた石を掴むと穴の中へと投げ入れる。



 しかし、すぐには音がしない。



 まだ。



 まだ。



 ポチャン──。



 落ちるまでの時間。その後の反響これは……。


「深いな。この先は結構広いぜ」


「う〜ちょっとゾワゾワするわねぇ……ドローンを先に降ろしてカメラで見た方がいいかも」


 アイルがスマホでドローンを操作していると、ナーゴが胸を叩いた。


「ナーゴが先に降りて安全を確認して来るにゃ〜」


「大丈夫か? 強いモンスターもいるかもしれないぜ?」


「任せておくにゃ〜」


 そう言うと、ナーゴはハシゴにヒョイっと飛び乗り、下へと降りて行った。



「ネッコ♪ ネコネコ〜ネコナーゴ♪ ネッコ♪ ネコネコ〜ネコナーゴ♪」



 変な歌を口ずさみながら。



「なんだあの歌?」


「ネコネコナーゴちゃんねるの主題歌よ。よく歌うからそのまま主題歌にしちゃったらしいわ」


「さっきビビりまくってたのに警戒心なさすぎるだろ」


 などと話していた時。



「フギャアアアアアアアアア!?」



 ナーゴの叫び声が下から聞こえた。


「な、ナーゴに何かあったのかしら!?」


「早く降りるぞ!」


 俺達は、ナーゴの元へと急いだ。




―――――――――――

 あとがき。


 次回、ナーゴに何があったのか……?そして品川ダンジョンの地下で待つ物とは……?

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