第17話 ジークリードとミナセ、六本木ヒルズを進む。

 〜探索者ジークリード〜


「はっ!」


 六本木ヒルズ内にいるモンスター達を一太刀で斬り伏せる。コウモリ型やゴブリンも目に付いたが、最も多いのはクモ型モンスター。入り口にマザースパイダーがいたように、この場所がクモの縄張りということか?


 商業施設が並ぶ通りを進み、3階を目指す。


「みんな〜ちょっと配信切るね。またボス戦前に再開するから〜」


〈乙〜〉

〈待ってる〉

〈ミナセちゃんがんばって〉

〈再開するまで461さんの方見て来るか〉

〈ジークリードさん応援してます!〉


「はーい! また内部攻略はアーカイブで出すからね♪」


 ミナセがスマホを操作する。ドローンが動きを変え、彼女の肩付近をホバリングした。


「なぜ配信を切るんだ?」


 襲いかかる3匹の子グモをぎ払い、生き残った1体に愛剣バルムンクを突き刺す。断末魔の悲鳴と共に子クモは息絶えた。


「ちょっと話したいことがあって……っとその前に」


 ミナセが杖を構え、「物理攻撃上昇魔法インクリズ・アタック」を発動する。彼女の体が青い光を帯びる。


「ギャギャッ!!」


「ほいっと!」


 杖をクルクルと回した彼女は、背後から襲いかかったゴブリンの顔面を殴り飛ばす。


「ギャアッ!?」


 殴られたゴブリンは壁に激突し、青い血飛沫と共に動かなくなった。


「これでゆっくり話せるかなぁ?」


 ダンジョン奥へと歩きながらミナセが口を開く。


「なんでアイルちゃん達を妨害したの? ファンの子達ちょっと引いてたよ?」


 妨害? そんなつもりは毛頭無いが。


「あれは試験だ。ヨロイの実力を見る為のな」


「試験?」


「ミナセも知ってるだろ? 最近の探索者はマトモなのがいない」


 3階までやって来た所でミナセが壁に寄りかかる。先に進もうとしたが、彼女に動く気配が無いので仕方なく足を止めた。


「あ〜ラルゴとかあの辺のこと言ってる? ほっとけばいいじゃん」


「この日本でマトモにモンスターと戦えるのは探索者しかいないんだぞ。ダンジョンからモンスターが溢れ出したらどうする?」


「自衛隊がいるじゃん」


「全くダメだ。ヤツらはダンジョン管理局の許可無くスキルすら使えない。だが、俺達A級は違う。己の判断で力を行使できる。俺達しか力無き人々を守ることはできない」


 考えるだけで腹が立つ。俺達のこの力は他者を守る為にあるのではないのか? 配信? 登録者数? 金? 快楽? 下らない。そんな私欲に取り憑かれた者がA級クラスに上がろうなど俺が許さない。


「A級に上がる可能性がある者は俺が見定める」


「ジークリードの言ってることは分かるよ? でもさ、カズ君が……ジークリードがそんなこと背負わなくていいじゃん」


「……俺にはその責任がある」


 バルムンクを握り締める。


 俺の恩人。真の探索者である「彼」の武器を。



 ……。



 ダンジョンからモンスターが溢れ出すことは起こり得る。俺は12年前に……実際に襲われたことがあるから分かる。どうなるのかを。


 本来なら安全な地域のはずだった。俺の学校からダンジョンは離れていたのだから。


 しかし、その日にモンスターは現れた。日常の風景の中に。


 現れたのはボスクラス。巨大な大蛇だった。


 周囲が血に染まり、友人達はみんな死んだ。


 誰も助けてくれなかった。自衛隊も警察も……皆怯え、子供のことなんてどうでも良かったんだろう。


 だが、1人のA級探索者だけは違った。


 彼は決して強い探索者では無かった。だが、大蛇に薙ぎ払われ全身に血を滴らせながら戦ってくれた。自分の命と引き換えに俺を助けてくれた。



 戦いの後、傷だらけの彼に聞いた。なぜ助けてくれたのか。それに対して彼は消え入りそうな声で言った。



「気付いていたら体が動いていた。子供の死ぬ所は見たくなかった」と。



 ……その時俺は思ったんだ。



 彼こそ真の探索者。英雄ヒーローだと。



 ……。




 …。



「その日から俺は自分を鍛え続けた。探索者になった後は、弱き者を救う為に戦い続けて来た。俺には彼を死なせてしまった責任がある……その責任を果たすにはより多くの人々を救う他ないんだ!」



「そうだねぇ〜」



 なぜかミナセが微笑みを浮かべながらこちらを見て来る。


「なんだその顔は?」


「いやぁ? その話をしてるカズくんはカッコいいな〜って思って」


「そ、そんなにしていたか……?」


「3ヶ月に1回はしてるね」


「う……それは……すまなかった。だが、俺の本心なんだ」


「だから中途半端なヤツがA級に上がるのは許せないってことね。ジークリードを助けてくれた『探索者』というイメージを壊すから」


「そうだ。A級以上の探索者は世間もダンジョン探索者のイメージとして受け入れる。だからこそ俺は許せない」


 ミナセが俺の顔を真っ直ぐ見た。そして笑顔で口を開く。



「じゃ、私達もゆっくり進まないとね〜」



「なぜだ?」


「このままじゃ『A級探索者の顔』であるジークリードが無名の新人を妨害・・して勝利を奪い取ったように見えるから」


「な!? 俺はそんなつもりは……っ!!」


 ズイっとミナセが俺の顔を覗き込む。その顔はいつもの笑顔ではなく、どことなく暗いものが宿る顔だった。


「いいカズくん? カズくんの理念は素晴らしいと思うよ? でもね、イメージは見る方が決めるの。私はカズくんのその理念が大好き。それを他人に誤解されたくないから配信してるの。君の活躍をみんなに見せる為にね」


 何も言い返すことを許さないと言った顔。正直言って、その笑顔が今まで戦ったどんなモンスターよりも恐ろしく見えた。


「だからね、次からこういうこと・・・・・・をする時はちゃんと私に相談して欲しいな?」


「あ、あぁ……気をつけるよ」


「勘違いしないでね。私はいつでもカズくんの味方だよ。だから、カズくんを馬鹿にするヤツは許せないだけ。つけ込まれるを作りたく無いだけ」


「分かってる」


「ふふっ。じゃ、じっくりボスに向かうとしましょ〜! ジークリードは鎧さんに試練を与えた。それを見届ける為にボス手前で待機していた。そういうシナリオね♪」



 ミナセは再びいつもと同じ笑顔に戻った。

 


―――――――――――

 あとがき。


次回は461さん、アイル視点です。53階に向かう461さん達……最上階で彼らを待ち受ける物とは?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る