第13話 461さん、秋葉原の武器屋へ行く

〜探索者461さん〜



 ──ジークリード達がまだダンジョンに挑んでいる頃。




 リレイラさんと別れた俺は早速アイルへ連絡を取り、秋葉原で待ち合わせした。アイルがあまり人目に付かない場所がいいと言うことで、秋葉原の外れ、スーパー「肉のハナムラ」近くの路地で彼女を待っていると、サングラスにマスク姿のアイルがやって来た。


「……ヨロイさん」


「ん? なんだよ?」


「確かに『鎧では来ないで』って言ったけどなんでTシャツにヘルム被ってるのよ」


 アイルが呆れたように肩をすくめる。


「ま、今から行く秋葉原は一般人が来るような場所じゃないしな。大丈夫だろ」


「そうだけどぉ……なんか恥ずかしいわね〜」



 と言いながらガチガチに顔を隠してるアイル。なんか矛盾してないか?




 アイルと2人で大通りまで歩き、末広町の交差点を左に。大通りを秋葉原駅方面へと歩いて行く。途中すれ違う人間は皆武器を装備した者ばかりだ。


「聞いてたけど、やっぱ探索者ばっかの街だな」


「昔は観光客で溢れかえっていたんでしょ? 私には想像つかないわ」


 リレイラさんに事情は聞いていた。数年前、秋葉原近くの神田明神にダンジョンが現れ、モンスターが街に溢れ返った。探索者達によってモンスターが駆除されたものの人が戻ることはなく、一部の商店がダンジョン産アイテムを売る街となったようだ。


「看板に可愛い女の子が描かれた街で武器売ってるって中々変な光景よねぇ」


 アイルが見上げた先にはくすんだ萌えキャラの看板。その光景が廃棄された街のように感じられた。

 


 ……。



 大通りをさらに進み、廃棄されたカードショップを通り過ぎた先の雑居ビル。提灯ちょうちんに「方内武器店ほううちぶきてん」と書かれた入り口に入る。


 階段を登り3階へ。扉を開けると、細い店内の壁一面に展示された武器が目に入る。ロングソードにショートソード。斧に槍に日本刀……武器に目を奪われていると、奥から若い男女の声が聞こえた。


「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいッス!」


 若いというか、もはや少年と少女。アイルと同じか少し下くらいに見える。2人とも黒いエプロンにキャップ。少女の方は長い髪を後ろで束ねていた。


 アイルがサングラスとマスクを外す。


「この店の店主はいる? 私達ダンジョン管理局の紹介で来たんだけど」


「この店は僕達兄妹の店ですよ」

「この店は私達兄妹の店ッスよ」


「え!? 兄妹で経営してんの!? 私とそんなに歳も離れてなさそうなのに」


「兄の僕は仕入れがメインです」

「妹の私は接客がメインッス」


 自分たちの店……か。


 黒い仕事用エプロンをした2人をもう一度に見る。両方とも左胸に「方内ほううち」と書かれた名札をしている。ここの店名も方内武器店……嘘って言う訳でもなさそうだな。


「僕たち2人ともダンジョン好きなんです」

「探索者から買い付けた武器を専門に売ってるッス」


 探索者から直接武器の買い付けか。現金が必要な時はここで売るかな。


「……」


 ふと横を見るとアイルが方内妹をマジマジと見つめていた。


「? 何っスか?」


「アンタの話し方ややこしいわね」


「ほっといて欲しいッス!!」



◇◇◇


 アイルの新しい装備が見たいと伝えると方内兄が店の奥からスタッフ系武器を持ってきた。


「今週は良い装備がそろってるッスよ〜今オススメを出すッス」


 カウンターに置かれる杖。それはイナヅマのような模様が彫り込まれた杖だった。


「まずはライトニングスタッフ。魔法攻撃5%増加に加えて電撃属性10%魔法強化の効果があります。4万5千円」


 方内兄が赤色の宝石が装飾された杖をテーブルに置く。


「次にこれ。炎帝の杖。 魔法攻撃8%増。炎属性8%増」


「へぇ。火炎魔法はこの前開放したばかり出し良さそうね。これはいくら?」


「6万円ッス!」


「高ッ!? さっきのライトニングスタッフと対して変わんないのになんで!?」


 よほど衝撃だったのかアイルが後ろに飛び退く。壁に展示されていた槍にぶつかり、倒れて来た槍を慌てて押さえるアイル。彼女は助けを求めるようにおれの方を見た。


「純粋な魔法攻撃増は人気あるからな。相場的には妥当だと思うぜ?」


 うめくアイルから槍をどかし、元の場所へと戻す。


「う、そうなの? ずっと初期装備で頑張って来たから知らなかったわ」


 それにしても属性強化か……便利だが今のアイルだと発動する魔法に片寄りが出るかもしれないな。初期の頃に着いた癖は中々抜けない。ここは属性強化は無い方が良いかもな。


「魔法発動時間短縮とかあるか?」


「あるッス。おにい。アレ出して欲しいッス!」


 方内妹が声をかけると。方内兄が1本の杖を取り出した。今のアイルと同じ木製の杖。しかし、先端は三日月のように曲がりくねり、その内側に水晶が包み込まれていた。


「ホーラの杖。魔法攻撃強化は3%、魔法発動時間を3%短縮する効果があります」


「お値段は5万円ッス。仕入れたばかりの一品ッス」


 ホーラの杖か……中々良さそうだな。


「どう思うアイル?」


「う〜ん……」


 アイルが真剣な表情でテーブルに置かれた3本の杖を見る。


「炎属性上昇は捨てがたいけど……ホーラの杖にしておくわ」



「ありがとうございます!」

「毎度アリッス!」


 これでアイルの武器はよしっと。後は俺の方・・・だな


「なぁ、このショートソードなんだけどさ、符呪エンチャントできるか?」


「2日ほど時間頂ければできますよ。何の魔法ですか?」


反射魔法リフレクションなんだが」


 方内兄が俺のショートソードをマジマジと見つめる。


「この刀身……符呪してリフレクションソードにするには9万ほどかかりますが大丈夫です?」


「しかも反射魔法は回数制限あるッスよ。使い終わったら元の剣に戻っちゃうッス」


 隣で聞いていたアイルが驚いた様子でこちらを見て来る。


「え!? 9万よ9万! そんな大金使っちゃっていいの!?」


「大丈夫だって。メリペイ払いで頼めるか?」



「今端末を用意するッス〜」



 ショートソードを預けて、俺達は店を後にした。



◇◇◇


 〜配信者 ジークリード〜



 461さんとアイルが方内武器店を出てしばらく経った頃。



 ツェッターの目撃情報を元に秋葉原の裏路地を探すとアイテムショップを覗く男が目に付いた。フルヘルムにTシャツの男。普段のフリューテッドアーマーとは違う間の抜けた格好だが、間違い無くヤツだ。



「お前がヨロイだな。ヘルムだけ被っているとはな」


「ん? 誰だアンタ?」


 ヘルムの男がぬらりと振り返る。Tシャツ越しに見える鍛え上げられた戦士の肉体。あの筋肉の発達具合は間違いなく探索者のそれだった。

 

「じ、ジークリード……っ!?」


 隣にいた女がサングラスと帽子を外す。水色の髪に紫のメッシュのツインテール。それは先ほどミナセが見せてくれた動画に映っていた少女だった。確か、天王洲てんのうずアイルと言ったか。



「おいジークリードがいるぞ!」

「話してるのって最近バズったルーキーか?」

「よく見たら天王洲アイルもいるじゃん!」

「え、じゃあ、Tシャツにヘルムのヤツが461さんか?」



 周囲の探索者達や店の人間が急ザワザワと騒がしくなる。その様子を見てよろいは首を傾げた。



「なんだよアイルの知り合いか?」


「そ、そんな訳ないでしょ……っ!? ダンジョン配信者よ。登録者数も実力もA級の超有名人」


「へぇ。それで、その有名人が俺に何のようだ?」


 飄々ひょうひょうとした不思議な雰囲気。それがただのD級ではないことを告げていた。知らず知らずのうちに期待感が高まる。ここ最近、新しいダンジョン配信者が現れる度に落胆していたから。


 コイツは違うかもしれん。俺を助けてくれたのように、真の探索者かもしれない。


「お前、なぜD級の身の上でドラゴンゾンビを倒せた?」


「? 攻撃モーションを覚えてるからだよ。何回も戦ってるからな」


「何……? 『何回』も……だと?」


 俺も数回しか戦ったことのない相手だぞ? そんなはずが……。


 とにかく当初の目的、探索者足る理由を聞いてみるか。何か使命感を持っていればそれでいい。無ければ……。


「お前は何の為にダンジョンに挑んでいる?」


 鎧は首を傾げながら腕を組む。まるで俺が何を言っているのか理解できないように。


「楽しいからだが?」


「楽しい……?」



 ……。




 ふざけた答えを……っ!? あの戦闘を見て期待した俺が馬鹿だった。


「貴様……真面目に答えることすら放棄するとは」


「俺は真面目に答えたつもりだぜ?」


「……」


 飄々というか、のほほんとした様子で答える鎧。


 何を言ってるんだコイツは? 楽しいなどとある訳がないだろう。命が掛かっているんだぞ?


 やはりこの男には探索者として引導を渡してやるのが正解か。だが、この男の戦闘技術には光る物がある。どうしたものか……。



 ……。



 そうだ。コイツに試練を課してみてどうだ? 人は追い詰められると本性が現れるという。この男に焦燥感・・・を味合わせることができれば、本質を見定められるかもしれない。


「なぁ? もう行っていいか?」


「待て。鎧と言ったな? 俺と勝負・・しろ。お前の探索者としての素養……俺が見定めてやろう」


「え? それってコラボするってこと?」


 急に天王洲の目がキラキラと輝いた。それを見た鎧が、彼女へと何かを耳打ちする。



(なんだよ。俺はこんなヤツと勝負なんて嫌だぞ?)


 (お遊びみたいな物だし良いじゃない。ジークリードはチャンネル登録者数300万人を超えるのよ? 同接数もかなりいるし……メリットしかないわ)


(俺あんまり興味無いんだけど……)


(ヨロイさんもA級探索者ジークリードの実力に興味あるでしょ?)


 (A級探索者の実力か……確かに興味あるかも)


 ひとしきり何かを話した後、天王洲が俺を見てニコリと笑った。


「いいわよ勝負しても。その代わり条件を付けさせて頂戴」


「……なんだ?」


「コラボ……ううん勝負の場所は六本木。どちらが早く六本木ヒルズの最上階まで攻略できるかでいい?」


(なんだよそれ。俺はじっくり楽しみたいんだけど)


(じっくり楽しんで良いわよ。負けても私達にはメリットしかないし〜)


 何を話しているんだ? まぁいい。これでこの男の本質を測れるのだからな。


「分かった。その条件を呑もう」


「やった!!」


「いいかこれは真剣勝負……決闘だ。敗者はどのような・・・・:命令にも・・・・従って貰う・・・・・


「え」



 俺の言葉になぜか天王洲が固まる。ん? ヤツらは勝負を飲んだはずだ。なぜ固まるんだ?



「おい!ジークリードがルーキーと決闘だってよ!」

「負けた方は言うこと聞くらしいぜ!」

「マジかよ! 賭け成立するぜこれ!」


 

 周囲のざわめきが一層騒がしくなっていく。なぜか天王洲があたふたと周囲を見回した。



「みんな、ちょ、そんなつもりは……」



「いいか鎧!! 俺が勝ったら貴様には探索者を引退・・して貰うぞ!!」


「え」


固まる天王洲。彼女はロボットのような口調で俺の言葉を聞き返した。


「引退って言った?」


「ああ。引退だ」


「負けたら引退?」


「そうだ」


 フルフルと震える天王洲。彼女は我に帰ったような仕草をすると、大きな声で叫ぶ。



「え〜〜〜〜〜〜〜〜!?」




 秋葉原の裏路地に、天王洲アイルの声がこだました。



―――――――――――

 あとがき。


 次回。ジークリードとの勝負を聞いたリレイラさんは……? ヒロイン2人が出会ってしまう回です。


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