第12話 461さん、有名配信者に認識される。

 〜ダンジョン配信者ジークリード〜



 ──東京都、外神田。


 神田明神と融合した神殿ダンジョンでは、轟音と叫び声が響いていた。


「グオォォォォォォォ!!」


「ヒィィィィ!?」

「サイクロプスがいるなんて聞いてねぇぞ!?」



 全階層吹き抜けになったダンジョンの上階から、相棒の魔導士……ミナセが下を覗き込む。彼女の肩まで伸びた髪。白いベレー帽に白いマント。それが薄暗いダンジョンの中を明るく照らすような気がした。



「ジークリード。アイツだよ」



 ミナセが金色のシンプルなロッドを向ける。最下層の空間に見えるのは山のような図体をした1つ目の巨人……サイクロプス。それが2人の探索者を襲っていた。


 愛剣の鞘へと手をかける。見計らったかのようにミナセが小さな機械を取り出す。鞄から出したそれは、配信用の小さなドローンだった。


「いい加減やめないかそれ」


「ダメ! ジークリードの活躍をみんなに知らせないといけないの!」


 ミナセがドローンのスイッチを入れる。ドローンが4枚のプロペラを回し空中へフワリと浮き上がった。


「これでよし。コメントも流れて来たよ」


〈始まった〉

〈乙〉

〈今日の獲物はサイクロプスか〉

〈期待〉

〈新記録出して〉


「みんな期待してるって!」


「知らん。オレはオレのやるべきことをやるだけだ」


 羽織っていたパーカーを脱ぎ、自分の装備を確認する。白銀龍シルバードラゴンの皮で作られたアーマーは、薄く、かつ防御力もそれなりにある。何より動きを邪魔しない。


 体のラインにピッタリとフィットしたそれは、昔見たヒーロー映画のスーツのよう……俺が考えた中で最も自分の力を発揮できる装備だった。


〈エッロwww〉

〈これを見に来ましたw〉

〈女ヲタワラワラで草〉

〈男のピッチリスーツはキチィよ……〉

〈は? じゃあ落ちろカス〉


 抜刀の構えを取る。腰を深く降ろすと鞘の隙間からバチバチと電気が発生し始めた。


 戦闘前の儀式。大切な愛剣・・へと向けて声をかける。



「バルムンク。今日も頼む」



〈中二剣キターーーー!!〉

〈それ紫電の剣ね〉

〈バルムンク(自称)www〉

〈ワクワク〉



「もう! みんなジークリードのこと馬鹿にしないで! ジークリードがバルムンクって言ったらバルムンクなの!!」



〈ミナセウザw〉

〈彼女面すんな〉

〈ミナセちゃん可愛い〉

〈はーい〉

〈そういうことにしておくで〜〉

〈いつもの流れw〉



 ミナセが何か叫んでいる。それを無視して集中力を極限まで高めていく。ひとしきりコメントへの返答を終えると、ミナセが真剣な目付きになった。


「ジークリード。強化魔法は?」


「オレはいらん。それよりも怪我をしている探求者が見える。ミナセは彼らに回復薬を」


「了解〜!」


 ミナセが「物理防御上昇魔法フィジカル・シルド」を発動し、その体が緑の光に包まれる。


 ドローンに軽く手を振ると、彼女は吹き抜けの手すりへと飛び乗った。



「じゃあ先言ってるからね〜」



 そう言うと、ミナセが吹き抜けから最下層へと飛び降りる。


〈飛んだ!〉

〈可愛い〉

〈落下死しないの?〉

〈防御上げてるから大丈夫〉

〈便利魔法〉

〈補助系かぁ〉


 再び下を覗く。サイクロプスに追われる者達。彼らの顔は恐怖によって引きつっているように見える。



 ──絶対に死なせはしない。



 彼らが柱の影に消えたタイミングで大地を蹴る。それに呼応するかのように、オレのスキルが発動する。


 スキルツリーを解放し、最大まで育てた俺のスキル。「閃光」が、オレの速度を『100%』上昇させる。


 そのまま壁を蹴りながら吹き抜けを高速で降下していく。


〈速えええええ!!〉

〈閃光スキルだからね。しょうがないね〉

〈すばやさ100%上昇とかヤバすぎんよ〉

〈たまんねーなおい〉

〈女さん興奮しすぎw〉



 降下しながら狙いを定め、一つ目の巨人の懐へと飛び込む。



「オォ?」



 完全に油断しているサイクロプス。その顔面へと斬撃を放つ。


「……はっ!!」


 鞘から放たれた刀身が電撃を帯び、サイクロプスの眼球へと直撃した。



「ギャアアアアアアアアア!!?」



〈クリティカル!〉

〈やるね〜〉

〈やっぱスゲェわ〉

〈中二だけどなwww〉

〈尻が……〉

〈見るのそこかい〉



「グオォォォォォォォ!!!」



「錯乱したか」



 滅裂に腕を叩き付けるサイクロプス。その腕を飛び移り、走り抜ける



「グルァッ!!!」


 

 サイクロプスがオレを振り落とそうと腕を薙ぎ払う。それが壁面に叩き付けられる寸前に、壁へと飛び移る。その壁を蹴って再びサイクロプスのその眼球へと突撃する。



「ウオオオオオオオ!!」



 バルムンクを構える。電撃を帯びた刀身で技を放つ。



波動斬はどうざん!!」



「ガッ!?」



 雷を纏った空気の刃。その斬撃がサイクロプスの首を吹き飛ばした。



〈強ええええ!!〉

〈爽快感あるな〉

〈風と電撃の複合スキルか〉

〈ちげーよ風のスキルと電撃の武器特性合わせてんだよ〉

〈信者乙〉

〈さすがA級探索者〉



 倒れるサイクロプスの巨体を蹴って落下の威力を殺す。オレが着地したと同時にサイクロプスの体が大地へと倒れ、辺りに轟音が響き渡った。



「ジークリード〜! 探索者は全員無事だよ〜!」



 ミナセの声で緊張感が引いていく。


 ……良かった。低級の探索者が実力以上のダンジョンにもぐったと聞いて肝を冷やしたが、誰も死なせずに済んだみたいだ。


〈乙〜〉

〈次も楽しみにしてるで〉

〈ジークリードさん……カッケェ……〉

〈次も中二剣で頑張ってねwww〉

〈アンチ氏ね〉

〈応援してます〉



「はーいまた次回ね〜!」



 大袈裟に手を振りながらミナセがドローンの電源を切った。




◇◇◇


 助け出した探索者達を見送り、長い階段に腰を降ろす。


「おつかれカズくん」


「本名で呼ぶなよ」


「良いじゃんか〜誰もいないし配信もしてないしぃ〜」


 能天気なことを言いながらミナセが伸びをする。


「まぁいい。ほら」


 パーカーのジッパーを締め、ミナセに缶コーヒーを投げる。


「うわちちっ!!」


「ちゃんと受け取れよ」


「私はカズ君みたいに素早くないもーん!」


 怒りながらもミナセが缶コーヒーを口に運ぶ。


「ダンジョン管理局への報告は?」


「済ませたよ〜。でもここ数日救助ばっかりだねぇ」


「何故こうも命を無駄にしようとするのか……」


 ダンジョンに潜る者達に配信者……金や承認欲求の為に命をかけるのか? 全く理解できない。


 腰に装備されたバルムンクに手を添える。


 生きたくとも生きられなかった者もいるというのに……。


「あ」


 急にミナセが間の抜けたような声を出す。彼女は、何かを思い出したかのように探索者用スマホを差し出した。


「そういえばさ、知ってる? 期待の新人探索者」


 スマホにニュースまとめサイトが表示される。そこにはフリューテッドアーマーにフルヘルムを装備した男の姿が映っていた。


「新人? また金の為にダンジョンに潜るヤツか?」


「いやぁそこは分からないけどぉ……その人ドラゴンゾンビやペラゴルニスを倒したらしいよ」



 なんだと?



 その2体のボスは相当強いはずだ。オレが戦ったのも数度……確かドラゴンゾンビは青山のダンジョンか。


「その探索者のランクは?」


「それがぁ……Dランクらしいよ。461ヨロイさんって言うらしい」


 ヨロイ……鎧か。よほど装備のこだわりがあるのか。


「Dランクでドラゴンゾンビを……」


 ミナセがスマホをタップすると、鎧の男がドラゴンゾンビと戦う映像が流れる。


「カズ君、どう思うこの人?」


「……動きに一切の無駄が無い。未来予知スキルでも持っているのか?」


「だよねぇ。私もそう思う」



 堅実に、確実に攻撃を回避しダメージを与えて行く……こんな戦闘スタイル見たことが無い。もしかしたら、この鎧という男には何か秘密があるのかもな。


 スマホを操作し、アプリを立ち上げる。あの探索者用装備だ。ダンジョンに挑む前後なら街で相当目立つだろう。


 ……Tシャツに、ヘルムで出歩いているのか。一体なぜ?




 しかし、場所は……近いな。



 立ち上がり、階段を降りていく。



「ちょっ!? どこ行くの!?」



「ツェッターにソイツの目撃情報があった。ソイツに会いにいくのさ」


「えぇ!?」


「ミナセは先に帰っていろ」


「も〜分かったよ〜! 帰りにアイス買って来てよね!」




 ヨロイ……と言ったか。



 貴様が真の英雄ヒーロー足り得る者か、見極めてやろう。



―――――――――――

 あとがき。


 次回。有名配信者ジークリードと461さんが出会ってしまう。果たして何が起こるのか?

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