カップラーメンの恋慕

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カップラーメンの恋慕

 麺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 上にいるネギに自分の気持ちを伝えるのだ。しかしもう意識が――。




 麺は、ずっと独りだった。カップの底でうずくまっていた。まわりは自分と同じ麺たちが無機質に埋めていた。


 そんな中で、麺は次第に自分の存在に疑問を抱くようになった。

 『自分は何をしているのだろう』

 『何のために存在しているのだろう』

 

 麺は苦しかった。それでもずっと考え続けた。そしてネギという存在を見つけた。

 自分とは違う、はるかな高みにいるネギ。このカップというちっぽけな世界において、ひときわ異彩を放つ鮮やかな緑色のネギ。


 自分が持っていないものに憧れるのは当然のことだ。

 すぐに麺はネギを好きになった。


 ネギを好きになった麺は、この気持ちをどう伝えるかを考え始めた。

 それは、麺にとって楽しい時間だった。久しぶりに生きる意味を見つけた気がした。




 そして、長い年月が経った。しかし、麺にとってはとても短い時間だった。麺は自分の体が衰えていることに気づいた。もう全盛期の輝きがないことを知った。


 それでも、麺は諦めたくなかった。 


 どうしたものかと考えていると、突然世界が明るくなった。と同時に、見知らぬ液体が自分たちの間に流れ込む。

 そしてまた暗くなった。一瞬の出来事だった。麺は何が起こったのか理解できなかった。


 困惑して、ネギの無事を一心に祈る。すると、だんだん熱くなってきた。気持ちが高まってきたのだろうか。心なしかふわふわした気分だ。愛を欲してからからに乾いた体が潤っていくのも感じる。


 何か異変が起きている。麺は自分に残された時間が少ないことを悟った。

 自分の気持ちを伝えなければ。

 しかし、体が言うことを聞かない。意識が朦朧としてくる――。


 突然、自分の体が宙に浮いた。正確には持ち上げられたのだろう。

 そこにはあのネギも一緒だった。


 細かく砕かれ、刻まれ、混ざっていく。二人は溶け合う。

 良かった、これでずっと一緒だ。

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