第56(3)話
「――《
七海がそう詞を発すると、両手に持った日本の小太刀に漆黒の粒子が収束する。自分以外を拒絶する【虚無】の力、そんな理不尽な力が彼女の武器を強化する。
七海は魔導によって強化された小太刀を中段に構える。
彼女の目線の先にいるのはおびただしい数の動く死体――
「――まとめて掛かっておいで。一斉に相手してあげるから」
彼女がそう口にした途端、屍鬼たちが動いた。屍鬼たちは一斉に七海にめがけて襲い掛かってくる。
しかし、彼女は慌てるそぶりも怯えるそぶりも見せない。微動だにせず、向かってくる多数の屍鬼たちを真っすぐ見据える。
やがて、一番隊が到達するや否や、彼女の姿が掻き消えた。彼女の体により月明かりが遮られ、屍鬼たちの頭上に影が作られる。あたりが暗くなったことで屍鬼たちも彼女が宙にいることを理解したのだろう。彼らは一斉に空を見上げた。
だが、この時点で彼女に気がつくようでは手遅れだ。屍鬼たちが目にしたのは、口の端を上げた彼女の表情だった。
「散れ」
重力に従って、七海は屍鬼二体目掛けて小太刀を振り下ろす。斬られた二体は声を上げることもできずに両断される。
「「「ッッ⁈」」」
仲間がやられたことで、彼らの間に動揺が走ったように感じた。しかし、すぐに七海に群がってくる。
七海は数多の屍鬼たちの攻撃をまるで針に糸を通すような正確な動きで躱し、躱すたびに小太刀を振るう。
漆黒の剣閃が煌めくたびに一体、また一体と次から次へと屍鬼が崩れ去っていく。
前から手拳が飛べば、上半身をわずかに逸らし、カウンターとして刺突を胸にお見舞いする。
後ろから蹴りがくれば、体を屈めてやり過ごし、すぐさま振り返って小太刀を横に薙ぐ。
両脇から挟み撃ちを仕掛けてこようものなら、地面を強く蹴って宙を舞い、落下と同時に彼らを叩き斬る。
あれだけいた屍鬼たちがみるみるうちにその数を減らしていく。
そして、最後の一体を――、
「……これで終わり」
胸に大きなバツ印を刻むように二本の小太刀で斬って捨てた。
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