第52(2)話
「よし、これで全部ね……」
周囲に怪異が生き残っていないことを確認すると、七海は小太刀を鞘へとしまった。
当然ながら、今晩も彼女の怪異討伐に同行させてもらった。戦闘が終わり、俺も建物の陰から姿を出す。
「そうだな……って、七海」
七海の頬に切り傷が入っていたのを見つけた。切り傷からはタラっと一筋の血が流れ出ている。先ほどの怪異との戦闘でついたものだろう。
「ん?」
七海は振り返り、首を傾げた。
「ここ、怪我をしている」
そう言うと、俺は自身の鞄から小瓶を一つ取り出す。小瓶の中には少し粘着性のある緑色の液体が入っていた。その液体を少量、自身の手に乗せると、その手を七海へと近づける。
「え、ちょっ」
いきなり近づいてきた俺の手を七海は払いのけようとした。
「おい、動くなって。塗れないだろ」
「い、いいって。それくらい、明日には治っているから」
「いや、七海は女の子なんだから顔に傷が入るのは嫌だろ。それに治っても、明日はまだ傷跡が残っているかもしれないし」
「うっ」
すると、七海が急におとなしくなった。やはり、顔の傷は気にするらしい。
おとなしくなった七海の顔に手を近づける。
「ちょっと染みるかもしれないけど、我慢してくれよ」
薬品をのっけた手が七海の頬に触れる。
彼女の頬は瑞々しくて、とても柔らかかった。
「いたっ」
手が患部に触れた瞬間、彼女の肩がピリッと震えた。
「言っただろ? 少し染みるって」
でも、その効果には自信がある。みるみるうちに、頬の傷は塞がった。後には、傷跡すら残らない。
七海も傷が塞がっていく実感があったのか、完全に塞ぎきった後に、自分の頬に手を触れた。
「え、本当に治っている……」
引っかかりのない感触に彼女が驚きの声を漏らす。
「良かった。上手くできていたみたいだな」
傷が完全に治ったのを目にして、俺はほっと安堵した。
「えっ、上手くできたって、これ、桂君が作ったの?」
「まあな」
七海の問いに対して首肯する。
七海に怪異討伐の同行を許してもらってからというもの、俺は魔導の勉強をし始めている。そして、その中には、母さんが得意としていた魔導薬の作成もあった。
七海は怪異との戦闘でよく傷つく。だから、俺はそんな彼女の傷を癒したくて、魔導薬についても勉強していた。魔導薬の作成には魔導を使う工程があるが、それは母さんやゆめの魔力を使わしてもらっている。
「へー、これはすごいじゃん」
七海は感心しながら、頬を触っていた。
彼女が素直に褒めてくれることが嬉しい。彼女の役に立っていると実感できた。
「さて、そろそろ――――」
魔導薬の効果を確かめたところで、七海は次の地点へと移動するべく、足を向ける。
そのとき――、
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
女性の悲鳴が上がった。
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