第62話★

 同時刻、学食にて。


「号外、号外、ごーがーい」


 突然の声に、学食で昼食を取りながら討論会の中継を見ていた生徒たちは注目する。


「号外、号外だよ~。今回の生徒会長候補、龍泉寺翔が不正会計だ~」


「えっ、なんだって」

「どゆこと、どゆこと」

「なになに」


 たちまち学内新聞を配る新聞部員のもとに人だかりができる。

 生徒たちは学内新聞を受け取ると、みんなその学内新聞に釘付けとなった。

 その新聞の見出しは――――


『生徒会長候補龍泉寺翔、自身が所属する吹奏楽部で不正会計。野球部、バスケ部も関与か⁈』


          ***


 時は遡って火曜日の放課後。俺と志藤さんは野球部のグラウンドのそばで、野球部の練習が終わるのを待っていた。

 月曜日、俺がみんなに話した作戦はこうだ。

 まず、志藤さんが野球部の会計を担当する南くんから裏帳簿のありかを聞き出す。そして、聞き出したありかを遼に伝え、遼がその裏帳簿を見つける。最後に、七海がその裏帳簿を証拠に不正会計に関する記事を書き上げて、討論会当日に号外として配布するというものだった。

 実際の収支を記録している裏帳簿がある方が、生徒会に提出する帳簿に虚偽の記載をするうえで都合がいい。だから俺は、龍泉寺たちが裏帳簿をどこかに保存していると踏んでいた。

 この作戦のかなめは裏帳簿のありかを聞き出す志藤さんだ。

 もちろん南くんも、みすみす志藤さんに裏帳簿のありかを教えることはないだろう。

 しかし、それは姿裏帳簿のありかを聞きに行った場合においてだ。


「今日はここまで~」


 顧問の先生が終了を告げる。それに伴って、野球部の部員たちが片付けを始めた。

「それじゃあ、志藤さん、よろしく」

「ええ、【接続コネクト】――――」

 直後、紫色の粒子が志藤さんのもとに集まってくる。

 そして、彼女は言葉を紡ぎだす。


「《トッタンパッタン――――差し出すのは我が白羽、差し出すのは我が想いこころ

  トッタンパッタン――――草木も眠る闇夜にて、我は愚直に織り続ける。

  トッタンパッタン――――恩人のあなたに、愛するあなたに。

  ――――――――トッタンパッタン》」


 最後の言葉を告げると、そこに彼女の姿はなかった。代わりにいたのは、龍泉寺翔。

「……すごい」

 俺は思わず息をのんだ。

 志藤さんはあれからほとんど毎日俺の母さんから魔導について教えてもらっていた。

 そして、最近になって魔導の制御に成功したのだ。

 彼女が今使ったのは変身系の魔導。つまり、目の前の龍泉寺は志藤さんが変身した姿だ。

「こんな感じかしら」

 龍泉寺(志藤さん)が口を開く。その声も龍泉寺のものだ。

「うん、ちゃんと変身してる。これならバレないと思う」

 龍泉寺(志藤さん)の問いにこくこくと頷く。

「ありがと。それじゃ、時間もないし、そろそろ行ってくるわね」

「うん、がんばって」


 龍泉寺(志藤さん)は自分の荷物をもって部室に戻ろうとしていた南くんに駆け寄った。

 南くんは龍泉寺(志藤さん)を見ると、どうしてここに、と驚いていた。

「突然悪いね。ちょっと二人で話したいんだけど、いいかな? あの話しだ」

 あの話しと言われて南くんもピンときたのだろう。他の部員に聞かれないよう、彼らはグラウンドから少し外れた場所に移動する。

「どうしたんだよ、龍泉寺」

「いや、わるいね。例の帳簿の保管場所をど忘れしてしまって、君に聞こうと思ったんだ。急遽、確認したいことがあってね」

「はあ、龍泉寺も抜けてるなぁ。あれは、音楽準備室の本棚に隠しただろ?」

「ああ、そうか。そういえばそうだったね」

「しっかりしろよ~。あれがバレると、俺たちマジでヤバいんだから」

「大丈夫、大丈夫、そんなヘマはしないさ。それじゃあね」

「おう、じゃあな」

 南くんと龍泉寺(志藤さん)は手を振って分かれる。


 少しして、志藤さんが俺のもとに戻ってきた。


「《約束を違えて扉を開ける》」


 すると、志藤さんは元の姿に戻った。

「桂くん、保管場所が分かったわ」

「よしっ」

 心の中でガッツポーズをする。

「ありがとう、志藤さん。さっそく遼に伝えようか」

「ええ」

 その後、裏帳簿のありかを教えられた遼は音楽準備室から裏帳簿を見つけ出し、それを七海に渡した。

 そして、七海は火曜日と水曜日の二日間で学内新聞を書き上げたのだった。

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