【KAC20241】三分じゃ足んないよ

ぬまちゃん

何ごとにも、余裕を持って行動しようね

 アキ子には三分以内にやらなければならないことがあった。

 そう、大親友の知ちゃんへの返信だ。


「二月中には絶対に返事するからさ、任せておいて知ちゃん」

「お願いね、絶対だよ、アキ子ちゃん。その返事は、二月中にはどうしても必要なんだから」


 そんな約束を交わしていたのに、テストやら卒業式の準備やら、ついつい三学期の忙しさにかまけて忘れてたのだった。


 * *


 ──危なかった。気が付いたら二月が終わっちゃうところだったよ。今年はうるう年で二月が二十九日まであるから助かった。二十八日しかなかったら、わたし友達なくしてたもん。


 そんな独り言をつぶやきながならも、すでに時刻は午後11時をとうに過ぎて、デジタル時計は57分を示していた。すなわち、二十九日が終わるまであと三分しか残っていない。


 ──おっと、こんなところで油なんか売ってられない。早く返信しなきゃ。


 ところが、こんな時に限って彼女の持っているスマホは調子が悪くネットには接続しない。


 ──そういえば、さっき兄貴が隣の部屋で騒いでた。ネットの調子が悪いのか対戦相手にぼこぼこにされてるとか言ってた。てことは、ネットが変なの? 確かにアンテナが一本も立ってないじゃん。


 すでに、時刻は58分を指している。残りはあと二分。

 このままでは、二十九日が終わってしまう。神様がアキ子のために残してくれた最後の一日。


 * *


 アキ子は自分のスマホを握りしめて家を飛び出す。


 目指すは道路の向こうにあるバーガーショップ。たしかあの店には無料のWi-Fiがあったはず。でも目の前の信号は赤。車がびゅんびゅん走ってくるので信号を無視して飛びだすのは無理。


 ──どうしよう、スマホの時刻は59分を指している。残り一分。


 * *


 彼女が命を懸けて道路を横断しようと思ったとき、歩行者信号が青に。

 時刻はすでに59分30秒。


 彼女はバーガーショップに滑り込む。

 スマホのWi-Fi アンテナはしっかりと立っていた。


 ──送信だ。


 彼女が送信ボタンを押そうとした、まさにそのとき、画面にはこんな文字が現れた。『認証期間が切れています。再度認証してから接続してください』


 時刻は00分00秒を指していた。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20241】三分じゃ足んないよ ぬまちゃん @numachan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ