ピンクの象
夏目海
ピンクの象
その象には三分以内にやらなければならないことがあった。
これは、ピンク色で生まれてきてしまったが故の使命だ。ああなんで他の象は皆灰色だというのに、僕のはピンクなのだろう。
そもそもなぜピンクなのだ。水色とか、オレンジとか、他の色でもいいのになぜピンク。
別に特にピンクが好きと言うわけではない。どちらかというと、ピンクは女性っぽくて嫌いだ。なのになぜかピンク色なのだ。
考えている間に一分が過ぎた。
残りニ分。周りを見渡してみる。象は10頭近くいると言うのに、ピンクの象は他にいない。なんで、こんな大事な時に。
決断を迫れと言わんばかりに、大人たちの手が伸びる。象は少しだけ足をすくめる。いやだ、絶対にいやだ。足がガクガクと震えだす。
なんだかいやな予感がするのだ。ここで、前に進むと決断をすると、とてつもない不幸が訪れるような気がする。ものすごく大問題が起きる気がする。
周りの象たちがジロジロとみてくる。早くしろよとせかしてくる。ピンクの象はお前しかいないんだから仕方ないだろと言われているような気がする。そんなこと言われても僕はピンクの象だから、小心者なのだ。そうだきっとこんなに怖がりなのは、僕のがピンク色だからに違いない。仕方ないじゃないか。
2分が経過した。残り一分。
周りの大人たちは、それでどうするの?って顔をする。早くしてよ、やるの?やらないの?と言わんばかりに。そんなこと言われても……。
手が震え出した。これはもうきっと、仕方がないことなのだ。
ピンクの象は踊り出す。鼻を大きく揺らして、足をドンドンと踏み鳴らして。まるでお祭りのように激しく踊り狂う。
あと一分。象は踊って時間稼ぎをする。考えるのは面倒だ。だから考えるのはもうやめよう。ぐるぐるぐるぐる。回っていると、何もかもがどうでも良くなる。
三分が経過した。考える時間は終了だ。僕はそっと手を差し出す。酒の匂いが充満し、目の前の火が消える。
おはよう
ピンクの象 夏目海 @alicenatsuho
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