超多忙なルーティーン

千石綾子

超多忙なルーティーン

 俺には3分以内にやらなければならないことがあった。


 お湯を入れた大好物のカップ麺が超絶いい具合に仕上がるまでに、愛するお猫様達のご飯を全て用意しなくてはならない。これは毎朝繰り返される、超重要なミッションなのだ。


 そんな事はお湯を入れる前にやれよ、と言われるのは重々承知している。

 だが、1分1秒でも多く睡眠を貪りたい俺には無理な話だった。


 

 目覚めると同時に飛び起きて、ポットのお湯をカップ麺に注ぐと、俺はダッシュでお猫様達の所へと向かう。


 まずはグレーの猫、グーコ。彼女は歳のせいか最近食が細い。栄養バランスのとれた高カロリーのカリカリに、ウェットフードを混ぜ込んでやらないと食べてくれない。


 次はキジトラの猫、まる太。名前の通り丸々と肥えている。こちらは低カロリーのカリカリで我慢してもらわなければならない。


 最後がハチワレのマロ。どういうわけか生まれつきお腹が弱い、お腹ゆる子さんだ。病院から出された整腸薬を飲ませる必要があるが、薬だけでは飲んでくれない。だから薬は10gだけのウェットフードと一緒に腸内を安定させるカリカリに混ぜ込んでやらねばならない。


 まず気を付けなければいけないのがまる太だ。グーコのウェットフード入りの高カロリー食が欲しいらしく、そちらに行こうとする。そこでグーコを、まる太が届かない高いところに上げて食べさせる。


 マロはマロでまる太のご飯が気になるらしく、俺がマロのウェットフードを計量して薬と混ぜ混ぜしている間にそちらへ行こうとする。


「マロよ、マロ。お前のご飯はこっちだぞ」


 俺はマロのご飯を混ぜ混ぜしながら鼻先にちらつかせて気を引く。全ての準備が整うと、お腹を空かしたお猫様達は、カリカリと小気味のいい音を立てながら無心にご飯を平らげていく。その姿のなんと可愛いことか。これぞ猫飼いの至福の時だ。



 そうして三者三様の食事を準備して、3分。タイマーの電子音が鳴った。俺はおもむろにカップ麺のフタを開け、トッピングを凝らして箸を持つ。

 いつもの電車の時間に間に合うためには、5分で食べ終わらなければならない。思いきりすすろうとして、俺の箸が止まった。


 嗚呼。なんということだ。やはり寝起きの頭であれだけの作業をこなすのは無理があるのだろうか。


 大好物の有名店監修の担々麺にトッピングしたはずの自家製挽肉そぼろの代わりに、何故か山盛りになっている猫のウェットフードを、俺は茫然と眺めることしか出来なかった。


                   了




※お題「書き出しが『○○には三分以内にやらなければならないことがあった』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超多忙なルーティーン 千石綾子 @sengoku1111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ