お湯を入れて3分待つだけ!じゃないんです?!
赤目
カップ麺こそ至高
お湯には3分以内にやらなければいけないことがありました。
机に一つ、カップラーメンが置かれました。
「お母さーん!お湯沸かしてー!」
12歳ぐらいの男の子ですね。割り箸を片手にねだっています。机の上に置かれたインスタントラーメンはカレー味のようです。中学生らしいですね。子供からの人気は頭ひとつ抜けている気がします。辛ぇ!ってなるのがいいんでしょうね。カレーだけに。ここ、笑うとこですよ。
「はいはい、ちょっと待ってね」
「早くー!」
部活から帰ってきたのでしょうか。前髪が汗でおでこに引っ付いています。もう腹ペコなのでしょう。日に焼けて黒くなった唇をペロリと舌なめずりします。若いっていいですね。
男の子がラッピングを剥がし始めました。爪でガリガリと……ガリガリと…………分かります。案外開けるの難しいんですよね。実は3秒で開けられる猛者がいるのだとか。
なんとかしてラッピングを外すと満を辞してお湯の登場です。沸騰寸前の適温ですね。ペリペリと蓋を半分まで開け、急いで加薬と粉末スープをカップに入れます。
そこにお母さんがトクトクとお湯を注いでいきます。カップ内側に書かれたラインよりも少し下で止めます。若干少ない方が、味が濃くなって美味しいんですよね。気のせいかもですが。
さて、それと同時に少年は3分を計り始めました。カップ麺のお湯は何をしているのか、覗いてみましょう。
「水温95℃!カレー味!時間は180秒!すぐさま料理に取り掛れ!」
おっと、お湯のリーダーが的確な指示を出していますね。お湯のリーダーってなんだよ、頭沸いてるのかって?沸いてるのはお湯ですよ。
「こちらA班!標的の
「こちらB班!標的の
お湯たちは役割分担をして料理していくのですね。これは豆知識なのですが、カップラーメンの底には空洞があり、お湯が満遍なく流されるようになっています。断じて
既に20秒が経過していますが、まだ麺は下の方しか茹でられていませんね。大丈夫でしょうか。
「こちらC班!粉末スープを溶かし終わりました!至急D班と合流し、茹での工程に入ります」
いったい何班まであるのか。おっと、カップの蓋が少し開けられましたね。待ちきれないのでしょう。少年の方はどうなっているのか見てみますか。
カップ麺の蓋を僅かに開け、とても熱のこもった視線で中を凝視していますね。あっ、時計を見ました。まだ1分しか経ってません。相対性理論でも働いているようです。グゥーっと腹が鳴いてます。
もう男の子の食べたいと言う欲望は爆発寸前でしょうね。
あっ、また時計を見ましたね。あと半分の辛抱ですよ。あっ、また時計見ましたね。あと半分の辛抱ですよ。またまた時計見ましたね。何回見るんだよ。時計を見れば見るほど長く感じるのは何故なのでしょうか。歯痒いですね。
ああっ!よだれ垂れちゃってます。食欲が抑えきれてないですね。見てるこっちもお腹すいてきます。
「緊急事態発生!緊急事態発生!至急E班の増援に迎え!繰り返す、至急E班の増援に迎え!ラスボス、
あちらも忙しいようです。でもあと半分もあるのですから大丈夫です。なんせ謎肉が最後の敵ですからね。これ以上増えるなんてあり得ません。あり得ませんとも。
あれ?机に男の子がいません。粉チーズを取っていたみたいです。粉チーズとは、一種の薬物のようなものです。と言うかもう薬物です。
蓋を開けましたね。粉を入れましたね。緊急事態パート2です。カレーにチーズ。大胆でありながらカレーのコクを深める計算された一手ですね。
「残り60秒!粉末チーズを溶かせ!そして出来るだけ麺と絡めろ!」
カップラーメンも終盤戦。ここからの追い上げが期待されますね。既にカップの中はカレーとチーズの匂いで充満しています。
溶け始めて麺と絡みつくチーズ、浮力に揺られ粉チーズの上に浮かぶ謎肉、コロコロとしたブロック状のジャガイモ。完成は間も無くです。
「残り30秒!全員総出でっ…………」
まだ2分半なのに蓋が全開になりましたね。男の子はせっかちみたいです。
「まだ早くないかしら?」
「そんなことねーよ。2分半が1番うまいんだ!」
邪道ですね。カップラーメンは3分。これは白亜紀から決まっています。本当ですよ。
少年は割り箸で、少し硬めのカップラーメンをかき混ぜます。温められ集団化したチーズがカレーの海を泳いでいます。
「ふぅー、ふぅー、ふぅー」
割り箸で挟まれる麺、それに絡みつくカレースープ。離れまいとしがみつくチーズと、捕えられた謎肉。豪快に一口でいきました。
もわっとした湯気が匂いと共に部屋に広がります。パンチの強いカレー味と甘味を引き出すチーズのブレンドが、麺に満足感を与えます。
一口、また一口と胃袋の中にラーメンが飛び込んでいきます。現在がちょうどお湯を入れ始めて3分ですね。お湯たちの努力はあと少し届きませんでした。でも、これほどまで笑顔で食べてくれるのなら願ったり叶ったりでしょう。
とうとう麺は食べ切ってしまったようです。少年はコップのように持ち、残ったスープとチーズの残骸をゴクゴクと飲んでいきます。
最後はカップについたネギの輪切りすらも箸で
「ご馳走様でした!」
満面の笑みを浮かべて、至高のお食事は終わりです。
さて、お湯には3分でやらなければならないことがありましたね。それは、ラーメンを作ることでも、スープになることでもありません。
人を笑顔にする。それこそ、お湯がやらなければいけないことだったのです。
お湯を入れて3分待つだけ!じゃないんです?! 赤目 @akame55194
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