NTRれそうになった場合には3分以内にしなければならない事がある

クマとシオマネキ

NTRTA(ネトラレタイムアタック)①

――NTRれそうになった場合には3分以内にしなければならない事がある――


   【何故ならアイツが来るからな】


 〘午後9時38分40秒 精算中〙


 口笛を吹きながらゴキゲンの帰り道…俺の彼女、各世がラブホのロビーで男と精算をしていた。


 料金の精算をしているようだか、俺からすれば関係も精算したいのかなと思わせるワンシーンだな。

 冗談でも言ってないと気が狂いそうだ、頭が回らない、息が苦しい。


 しかし男とラブホか…それだけで全てが繋がる、少し前に結婚を約束して、家族や近しい人だけで式を挙げようと日取りまで決めていた。

 今は式まで一週間に迫ってきている。

 しかし最近、式が近くなるにつれ言動、行動、態度におかしい所があった。


 俺、高梨無太郎たかなしむたろう志村各世しむらかよは子供の頃からの付き合いだ。

 だからかな、お互いが空気のようで、だからこそお互いのプライベートは干渉しなかった。

 それは長い付き合いからお互いを知り尽くしているという意味でもあった。

 今となってはお互いの事なんにも知らないまま結婚しようとしてたんだな、と思うが。

 

 て、こんな事を知ってしまったけど干渉しないから…なんて、だからといって何でも良い訳ではない。

 俺は自分で思ったよりも嫉妬深く、自尊心も高いらしい、人並みには。

 今は年齢で言えば24で…5年くらい前か?


 各世とは同じ高校に通い、中学校から付き合っている事を、互いの親しい友人にはオープンにしていたな。


 ある日、俺と各世が付き合っている事を知っている、各世の女友達から言われた。


「今川と各世の距離がやたら近いから注意した方が良いよ」と。


 各世は別にクラスの人気者…という訳でも陰キャという訳でもない。

 ただ、よく笑う明るい女、モブAってやつだ。

 化粧をすると可愛いが高校時代のすっぴんはまぁ普通って感じだった…


 その極々普通の代表みたいな各世が、男にボディタッチをしていた。

 ドッグトレーナーが『シッ!』っとやるやつじゃない。


 『アハハ!やだぁ啓太、それおかしいでしょ?』


 と、言いながら名前呼びをし、手の平で男の胸を触りっぱなし。

 男と女が逆で年齢が年齢なら最高裁判所まで争う案件だ。

 

 しかし、その程度で浮気だとガタつく訳にはいかない。

 俺は当時…いや、今もだが各世を本当に愛しているのだ。

 昔からの付き合いだ、向こうの親とも仲は良い。

 小さな嫉妬心で大事な物を失いたくないし、懐の深い所を見せたいと思うのはおかしな事だろうか?


 そして各世の友達…という事は、俺の態度も各世に伝わるだろう。

 だから俺は度量の広さを見せつける為に各世の友達に言ってやった。


『まぁ友達なんだろ?それぐらい気にしないよ。わざわざ言わなくて良いよ?お前と各世の関係もある訳だしさ』


 言った、余裕のある男は助言者にも気を使う。

 勿論、笑顔を忘れない。


『そんな血管浮かせて鼻水と涙を流しながら言われても説得力ないんだけど…本当に良いの?』


『あぁ、コレはちょっと体液が漏れただけ』


 俺もバイクに乗るが古いバイクは良くオイルや謎の汁が漏れている事がある。

 その様なものだと説明した。何故かその各世の友達はキレてたが…


 その1週間後には近くのデパートで各世と今川が一緒にいるのを見つけた。

 

 残念ながら例の各世の友達と俺の幼馴染である貴哉と3人で遊んでいた時に見かけてしまった。

 俺は、実はその日、各世に遊ぼうと誘ったのに断れられている事を恥ずかしさのあまり友達には言えなかった。

 その事があり、じっくりと、ショックと悲しみを感じていると…


 以前、忠告してくれた各世の女友達が、凄い勢いで近づいて振りかぶった。


 パァアアアアアアンッ!


『アンタ!高梨(無太郎)がいるのに何やってんのよっ!今川も分かってんのっ!?』


 怒りとか悲しみが来る前に、まず見られてしまった恥ずかしさと情けなさが来ていたが、彼女の友達のビンタで全部吹っ飛んだ。


 皆さんもありませんか?

 こっちが目標を確認、怒りゲージを蓄電、さぁ後3分でキレるぞって時に周りで過剰にキレる奴がいて、一番の被害者が空回りする感じ。


『アンタさっ!高梨に謝りなよ!』

『え、あ…ちが…』

『…はぁっ!?テメーッ!何ショック顔してんだ!謝れって言ってんだろこの野郎!』


 いきなり太ももを踏みつけたと思ったら…


 ヒュッ…ゴンッッ!!『ウッ!?』ゴロん…


 女の子座りでショックを受けている各世の頭部に綺麗なシャイニングウィザード(各世の太ももを踏みつけながら、横から流れる様に側頭部への膝蹴り)を決め、各世は失神した。

 更に追い打ちをかけようとする女友達。


『ちょっ!?やり過ぎ!やり過ぎだよ!!もう良いって!!』


 各世は完全に気を失っていた…女同士とはいえコレは酷い。

 俺が庇うように各世の前に行くと、今度は素早く振り返りながら、置いてあった売り物の金属バット掴み、今川君の頭を躊躇なくフルスイングしようとしたが、今度は止めようとしていた俺の男の幼馴染の肩に当たり、友達は『ぐわぁっ!?』と言いながらゴロんとなった。


 流石に各世の友達…かコレ?友達かどうか怪しいがとにかく友達が、流石に俺の幼馴染・貴哉の肩に金属バットを当てた時に、やってしまったと気付いたようで泣きながら『すまんかった』と、俺達に土下座した。

 ちなみに今川君は尻餅をついて漏らしていた。


 とどのつまり、その友達のお陰で俺の気持ちも真実も全部有耶無耶になった。

 その事を含め、泣きながら土下座をしている友達にアンタが土下座してどうする思ったが…まぁ言うまい。


 後日、学校の校舎裏で各世と二人で話した。


『違うの…ちょっと遊ぼうって言われて…別に何かあるわけじゃないの…本当に…好きなのは無太郎だよ…』


 本当は当日『ちょっと用事があるの』と、サラッとデートである事を隠した理由を知りたかったが、頭包帯グルグル巻きで死んだ目で言われても可哀想としか思えない。

 俺は甘いなと思いつつも…


『俺…自分でも思ったより嫉妬深いんだなって思った…だからもし…好きな人が出来たらちゃんと言ってくれよな…』


『違うよ!勘違いだよ!好きなのは無太郎なの!信じてよ!』


 俺はそんな感じのハッキリしない返事で終わらせてしまっていた。

 でも、ずっと引っかかっていたんだ。独占欲と言われると恥ずかしいけど、なんで『無太郎だけ』って言ってくれなかったんだろうって。


 ちなみにその女友達は兄貴が女に浮気され遠くに旅に出たらしい。優しい兄がゾンビのようになったと悲しい目で言っていた。だから私は戦う…と。


 ただ、説明が下手過ぎて俺には良く分からなかったし、本当に何も無かったら冤罪でシャイニングウィザードはやり過ぎだよだと思った…。


 それから…俺と各世は順調だった…と思う。

 春はお花見へ、夏は海へ、秋は旅行に、冬はクリスマス…高校卒業、そして大学は違えど同棲をして、お互い何もやましい事は無かった筈だ。

 付き合いが長ければそう毎日ラブラブとはいかんだろう。

 

 そもそもない各世は寂しがりだ。両親は仕事で忙しいから、小学校の時は学校終わりに遊んでいても最後まで遊んでいる子供だった。

 だからいつもすぐ側に誰かしら人がいるのは大学まで変わらなかった。


 そんな寂しがりの各世に、俺も浮気はしないが淡白は態度を取っていたかも知れないし、思えばおかしな点はあった。


 …いや、事あるごとに各世の高校時代の友達という、例のアイツが現れては変な風な空気を作って去っていった。

 大学になっても、各世の大学にいきなり目出し帽を被って各世の所属しているサークルのメンバーを襲ったり、幼馴染の貴哉を車で轢いたりしたらしい。

 そんなだから俺以外は疎遠になったな。

 

 それはともかく眼の前のラブホの各世だよ…

  



 〘午後9時39分34秒 精算後のキス〙


 俺は昔を思い出してる場合では無い…既に1分は過ぎている。

 このまま突っ立ってれば2分後には対面するだろう。

 対面してどうする?もう結婚式は…1週間後だ…まだ各世と別れる覚悟すら…何も出来ていない。

 顔が見えた瞬間に電柱に隠れてたが何も解決していないのだ。

 もしかしたら…各世ではなかったかも知れない…


 そうであって欲しい。


 俺は再度、電柱から身を乗り出して2人を見る。

 俺は見えた…その余りの衝撃に片膝がガクっと落ち電柱にもたれかかった。


 各世だった、各世が精算を終え男とキスをしていた。

 2人は名残惜しそうに舌を、そして身体を密着させ絡ませる。

 だが…何よりも…その男は…結婚式でスピーチをお願いしている…各世と同じ俺の幼馴染の貴哉だった…


 何故だ…貴哉…俺と各世が付き合う事になった時は祝福してくれたお前が…

 いつも相談にのってくれて、喧嘩した時は心配してくれて、大学でお前が彼女が出来た時は本当に嬉しかったんだぜ…


 思い出してみれば同棲をして、何故か帰ったら貴哉が居たことがあった…そういう事か…俺は見つからないように震える膝を抑え少しだけ近付いた…


『ねぇ?もう次は結婚したら会えなくなっちゃうかな?』


『いや、今までもわかってないんだから無いんだから大丈夫だろ。そんなにしたいならもう一回してく?』


『もう!馬鹿タカヤ…♥』


 シネ…じゃない、完全に真っ黒じゃねーか…

 もう…結婚式どころじゃねーな…女っつーのは…嘘をつくって言うが…これは…つれぇよ…

 しかしこんな致命傷は2度目か…今川だっけ?

 あん時以来だ…


 あの時は有耶無耶にされたが今回はもう駄目だ。

 俺、ハッキリ言おう…2度とお前等の顔も見たくないって。

 これから結婚するのに疑い続けて生きていくなんで地獄じゃないか…


 そしたら俺どうしよう…ウチはどっちかと言うと平凡サラリーマン家庭の一人息子、向こうも一人娘だけどお父さんはベンチャー企業の社長で市議会議員をやっている。

 

 親は幼馴染だからこその玉の輿じゃないかなんて笑ってたけど…もし疎遠になったら俺はこの界隈じゃ生きていけないだろうな…父さんも母さんもゴメンな…こんな俺が…もう逃亡しかない。

 結婚式の当日にドタキャン、証拠と何も用意出来ないからただドタキャン…でも浮気野郎ぐらいの事は手紙に書くか…そして…うどん屋でもやろうか…


 最近、金が無いから、揚げカスとネギが無料のうどん屋にばかり行って揚げカスネギ(うどん付き)みたいなもんばかり食っていた。

 しょうがないだろ、ギリギリ滑り込めた安月給のサラリーマンなんだから。

 ちなみにうどんは何回か作った事がある。塩と強力粉、混ぜて足で踏んで熟成させて…じゃない!


 俺の足は動かない…怖いんだろうな…25歳までの自分が否定されるのが…だって俺の人生はあの2人で構成されているようなものだ。

 いつからか分からないが…いや、しかし各世との思い出を積み重ねるのは今日までなのは間違いない。

 だから言ってやる…


――裏切り者!お前らなんか顔も見たくない!――


 なんだか弱いなと思った。これだけの事をされてもまだ強く言えない。

 もう…突然やってきた来た終わりの時間が差し迫っているのに何も思いつかない自分に涙が出た…

 だって時間が無いんだよ…


 俺は腰が引け、また電柱の影に隠れた…このまま行けば見過ごした事になる。

 もう後、数秒でラブホから出てくるのに腰が引けるなんて…

 だから今、2人に会って糾弾しなくてはいけないのに…未だにこのまま黙ってれば終わるなんて情けない自分がいる…


 そんな時、何かが近くで動いた。

 近くのハイエースが少し動き止まった。





〘午後9時40分25秒 精算終了、覚悟不完了〙


 ハイエースのドアが開く…

 手動のスライドドアから出てきた女…見知った女だった。

 その女は根多散華ねた さんげ…厨二病ネームだ。

 なんでアイツが…とは言わない…こういう重要な場面ですぐアイツが来て有耶無耶にされる。


 そう、高校時代から今までずっと理解不能な行動を取り続けて俺以外連絡を断った各世の…知り合い?俺の方が友達か…結婚式には呼ばないでくれと各世に言われた件の女…


 大体3分くらいか…いつもそれぐらいで、アイツが来て目茶苦茶にされる。

 位置の問題なのか集中力が凄いのか、俺には気付いていない。


 それにしてもなんつ―格好してるんだ…

 全身網タイツみたいな服にハイレグビキニとブーツにグローブ…何アレ、忍者?アニメのコスプレ?

 そして相変わらず金髪の跳ねたショートカットに猫っぽい顔。


 この間会った時は実家の土建屋の事務員してるとか言ってたから落ち着いたと思ったけど…あんな格好してるようじゃ全然変わってねーな………じゃない!!


 塀で俺の姿は見えていないようだが、向こうからも各世と貴哉の姿は見えているようだ。

 黒塗りのハイエースのドアを半開きの状態で、何かゴソゴソやってると思ったらトンファーの様なものを両腕に持って黒い目出し帽を被った。


『安全…確認…ヨシ…』


 何それ…全然、安全は感じられない、ただのパワータイプの誘拐犯的な生き物が今まさにホテルから、イチャつきながら出ようとしている2人に狙いを付けた。

 何?拐う気なの!?


 駄目だ!一応幼馴染で各世は結婚式を挙げるつもりだった彼女…目の前でパワータイプ誘拐犯に攫われる理由にはいかない!

 各世に裏切られた俺だが、友達が彼女を拐うなんて…こんな事は望んでいない!


「やめろおおおおおおおおお!!!」


 声を出しながら思った。

 後5秒で遭遇する位置で大声を出しながら飛び出した。

 そう、2人にバレるに決まっている。


 臆病者の俺は裏切った2人を一切見ずに目出し帽を被った変態、散華の方に全速力で走っていた。


「ウワァ!?て、敵ぃ!?厶厶?オマエは無太郎!?無太郎!何するんだ!おい!無太郎!やめろ!無タァムゴゴ!?」


 今、散華が騒いだせいで名前が周知された、何故、名前を連呼するのか?

 つまり通行人のフリすら出来なくなった。


 俺は意を決して散華に突進、散華を車の後部座席に投げ、逃げる事にした。

 しかしタックルして押し込んでいる時に余り俺の名前を呼ぶものだから手で口を塞いで黙らせた。

 ハイエースのエンジンはかかったまま、幸い俺は安月給の営業回り野郎、車の運転は得意だ。

 バックで散華の手を縛り、ネクタイを猿轡ようにしてハメてスライドドアを開け散華を入れた時…


『キャアアアアアアアアア!!!誘拐犯よっ!!』


「え!?違っ!?クソ!南無三!!」


 知らぬ一般人、通行人が見ていたようだ。

 無論一刻も早く離れるための行動だ、説明なんてしてる暇ない。

 俺は素早く運転席に乗り車を発進させた。

 一瞬の隙だけ各世の顔が見えた…

 まるで絶望みたいな顔をしているが…俺は今、お前どころじゃない絶望的な状態なんだぜ?

  


〘午後9時40分40秒 Operation Revenge mission failed〙



 続く…と思う。


 


 


 

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