ロック・トゥ・ザ・3ミニッツ

ケイティBr

ERROR

 アレックス・ターナーには三分以内にやらなければならないことがあった。


 彼の前には、自身のルーツを知る為にドクター・エヴァンと共に作り上げたタイムマシンがある。


 しかし、コントローラーは操作不能となっており、パスワードの再入力には三分かかるとの警告が画面に表示されていた。


「アレックス落ち着くんだ」

「ドク! 落ち着いてなんていられないよ!」


 彼が立つのは、アメリカ西部の荒野を思わせる静寂に包まれた場所だった。


 枯れた土が広がる地平線の向こうからは、全てを呑み込むような土煙が立ち込めてきていた。


 アレックスには、身を守るすべなどない。


 あの暴風に巻き込まれれば、自身が木の葉のように舞い上がり、やがて地面に叩きつけられる運命にあるのは明白だった。


「早く、ロックをなんとかしてよ! そっちから操作出来ないの!?」

「今はシステムがセーフティモードになっているようだ。だからそちらから解除せねばならん」


 恐怖に震えるアレックスの手に握られたコントローラーの画面には、4つの空白が表示されていた。


 再度パスワードを入力しないとならないが、覚えていた数字を入力してもコントローラーからはERRORと表示されてロックされてしまったのだ。


 アレックスは焦りながらも、冷静さを保とうと努めた。


 彼はこの瞬間のために何年もの研究と準備を重ねてきた。


 タイムトラベルの理論を熟知し、その実践においても、彼の師であるエヴァン・シュワルツから数え切れないほどの指導を受けてきた。


 ドクター・エヴァンは、タイムトラベルによる歴史調査の可能性を信じ、その実現のために人生を捧げた第一人者だった。


 アレックスにとってはドクターが、この危機的状況を乗り越えるための唯一の希望だった。


「待っておれ、確かメモが……」

「頼むよ。ドク」


 アレックスは祈るような心持ちで、ドクターが消えた画面をじっと見つめていた。


 その間もドクン、ドクンと自身の鼓動が高鳴り続け、体がブルブルと震えて来た。


 ふと土煙の方へ目を向けると、地面との境界線に黒い何かが蠢いているのが見て取れた。


「なんだ。あれは?」


 手を額にかざし、その黒い物を凝視し確認をしようとするアレックスの体は震えていた。


 その震えはタイムマシンにも伝わり、機体がガタガタと震えだしてドクと繋がっている画面が乱れた。


「ド、ドクッ! 早く、何かが来る!」

「分かったぞ。単純な事だった」

「!? 良いから早く教えてよ!」

「アレックス、聞いてくれ。お前の心の中にある数字を信じろ。それが答えだ」


 ドクター・エヴァンの声には自信が満ちていた。


 けれどアレックスは鎮痛な面持ちで頭を振った。


(そんなの知らないよ……)


 目を閉じたアレックスの心は、軽はずみでタイムマシンに乗ってしまった後悔と、未だ見ぬ両親よりも先に旅立ってしまう懺悔で満ちていた。


 その間も土煙は、アレックスに近づいておりその先頭を走るのが全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだと見て取れた。


 暴風でなかったとしてもこのままでは、タイムマシンは踏み潰されてしまう。


 アレックスが絶望的な状況だと言うことは変わらなかった。


 ――その時、カチッと言う音が鳴った。


「ロックが解除された。でも……」


 彼は目を伏せて、もう一度考えるがパスワードが全く分からない。


 逡巡しゅんじゅんしている間もバッファロー達の足音が近づいてくる。刻一刻こくいっこくと破滅の舞踏ロンドが奏でられて何もかもを踏み潰そうとしていたその時だった――


 プルルル――アレックスのポケットの中で、ドクター・エヴァンから受け取っていた古めかしい電話が震えていた。


 アレックスが、メカニカルな携帯電話を取り出すとそこには……


☆☆☆


 タイムマシンは光に包まれ、次の瞬間、彼らは現代の研究室に戻っていた。


 アレックスはタイムマシンから飛び出し、ドクター・エヴァンの元へ駆け出した。


 けれど研究所を隅々まで探してもドクターの姿はなかった。


 代わりに机の上には手紙が一通置かれていた。


「アレックス、お前がこの手紙を読んでいる時、私はもうこの研究所には居ないだろう。

実は、タイムマシンの作成に借金をしていて研究所は火の車だったんだ。

しかし、心配するな。お前の心の中には、未来を形作る力がある。それを信じて、前に進め」


 アレックスの目からは涙が溢れた。


 彼の手にある携帯電話に映されたものが、亡き母親の誕生日と共にメッセージが有ったからだ。


 ――愛するアレックスへ、また逢う日まで――


「母さんは、生きてるんだ。俺はいつかまたあの時代へ行く。きっとだ」


おわり

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ロック・トゥ・ザ・3ミニッツ ケイティBr @kaisetakahiro

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