このいとなみの果てに。

ももいくれあ

第1話

僕は知っていた。

本当は全部。

ただ、黙っていた。

それが一番良かったはずだから。

僕にとっても妻にとっても。

そして、ある日の夕暮れ時、

妻を誘ってみた。

髪を洗わせてくれないか。

最大限の勇気をふりしぼったこの願いは、

案外、あっさり受け入れられた。

いいわよ。お願いするわ。

うん。

それがいい。

いいじゃない。

かなり乗り気だった。

まぁ、そこからは、狭いお風呂場で、

大変だった。

一時間以上かけてようやく髪を洗うことが出来た。

納得の仕上がりだった。

あたり一面に立ち上る湯気とシャンプーのいい香りが

なんとも心地良くて、うっとりした。

ココロの底からリラックスすることができた感覚が宿った。

ありがとね。

ドライヤーの音にかき消されそうになりながらも

しっかりと、僕の耳にはそう聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

このいとなみの果てに。 ももいくれあ @Kureamomoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ