人は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに感謝せねばならない。
枝之トナナ
創世記より
神には三分以内にやらなければならないことがあった。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに破壊された世界を手直しせねばならないのである。
時は世界創生の六日目であった。
「なんでやーっ! なんであないなヤツらに治められなあかんのやーっ!?」
「神の似姿ちゅうがあんなん裸の猿やんけーっ! ワイらは認めへんぞーっ!!」
「猛牛伝説見せたるでぇ! We can do itじゃあーっ!」
「うぉおおおおおおおおおおーーっ!」
間もなく沈み切る夕日を背景に、荒くれたバッファローズはありとあらゆるものをなぎ倒し続ける。
真っ先に神の意を汲み、野牛達の怒りを鎮めようとした獣の王ベヒモスすらその突進の前では無力であった。
しかし、今この時においては――ボロ雑巾を通り越し、良く叩かれた柔らかな肉の塊となってしまった彼の者の献身に涙する時間さえも惜しい。
なにせ時は刻々と過ぎていくのだ。
冒頭時には三分であったが、おお、見よ。
まばゆき赤光が天と地の狭間に消えていく。
あの輝きがすべて消え、闇が訪れた時、七日目がやってくる。
創世記の七日目――つまり、休日である。
このまま全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを放置すればどうなるか。
考えるまでもない。
全知全能たる神が七日目に働かざるを得なくなり、その結果あらゆる休日の概念もまた破壊される。
そうしてこの世は週七出勤もサービス残業も当たり前の休み無きブラック世界になるであろう。
引いては祝日も連休も、春休みも夏休みも冬休みも破壊する――恐るべきバッファローの突進であった。
ここで愚かな人類はこう考えるかもしれない。
全知全能の神ならば三分以内にバッファローの怒りを沈め世界を修復できるだろう、と。
しかしそれはタスク管理を知らぬ者の考えである。
神は全知全能であるが故に、働き方も完璧であった。
バッファロー達の捕獲と懐柔、ベヒモス肉の回収と調理、人間の保護、世界の修復。
どう考えても三分では足りぬ、六時間は必要である――神はそう考えた。
故に、神は言われた。
「これより一日のはじまりは日没より六時間後とする」
こうして、深夜0時が生まれた。
そして神は一時間かけてバッファロー達を説得し、一時間かけて息絶えたベヒモスの肉を切り分け柔らかくおいしいベヒーモステーキを焼いた。
さらに一時間かけて憔悴した人間を探しだし、温かなステーキを与えた。
これこそ人間が、全地のおもてにある種をもつ全ての草と種のある実を結ぶすべての木以外のもの――すなわち肉を食べることが許されたはじまりである。
やがて満腹になった人間が眠ったあと、神は残りの三時間で破壊しつくされた世界を出来るだけ元の姿に戻した。
この時修復が間に合わなかったのが荒地であり砂漠であり砂丘である。
全知全能たる神は、広い世界の一部地域よりも休日を守ることを優先したのだ。
かくして創世は終わった。
今世に生きる我々が休日を謳歌できるのは唯一神の尽力によるものであり、焼肉トンカツステーキetc...に舌鼓を打てるのはバッファローがもたらした奇貨である。
神に感謝せよ。そして全てを破壊しながら突き進んだバッファローの群れに感謝せよ。
彼らがいなければ、"休日の夜に他人のおごりで食べる焼肉"という至上の美味も存在し得なかったのだから――
人は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに感謝せねばならない。 枝之トナナ @tonana1077
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