閑話 店員さんは見てる
私の名前は
特技は脳内百合フィルター。可愛い子が揃えば、なんでも百合に変換して見えるぞ。
バイト先は、少し入り組んだ住宅街の中にあるスーパー。私はそこで品出しとレジ打ちをしている。
――いや、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、この店にやってくる来る
「気になってたんですけど、リホさんシャンプー変えました?」
「え、その質問ちょっとキモイかも……。変えたけどね」
「キモ……。いや、なんだか、いつもより甘い香りがするな、と思いまして」
「やっぱ、ちょっと気持ち悪いなぁ。それ、他の人にはやっちゃダメだよ」
「リホさん以外のシャンプーの匂いとか、覚えてませんよ……」
「あ、あたしのも、……覚えなくてよろしい。…………ちなみに、前とどっちが好き?」
「今の方が、美味しそうな匂いがしますね」
「今の言い方はわざとでしょ! もー!」
「ふふっ、バレましたか」
おーおー。やっておりますなー。
彼女たちは、ここ最近、このお店に二人でやってくる百合カップル。よく分からないけど、
元々、明るい髪色の美少女さんは、ここの常連だった。芸能人と見紛うほどのルックスで、初めて見た時から眼福にさせていただいている。本当に芸能人なのではないかと思って、一度調べてみたけど、それっぽい人は見つからなかった。
そんな彼女が、ある日から、どう見ても家族には見えない年上お姉さんを連れてやってくるようになる。
女性にしては少し背が高く、スラっとしたシルエットが綺麗な黒髪美女。スーツ姿がよく似合っている。しかし、見た目に反して天然っぽい空気を纏っているのがポイント高い。
彼女たちがどういった関係なのかは全く分からないけれど、私は夕方のシフトに入ると彼女たちの来店を心待ちにしてる。理由は簡単だ。
彼女たちの妄想は、非常に捗る!
なにせ、彼女たちは人目など無いかのように、節操なくイチャイチャしながら店内を歩き回る。
この間は手を繋ぎながら襲うだとか襲わないだとか騒いでいた。お蔭様で脳内フィルターを使うまでもなく、私の頭の中は花畑だ。
夜はきっと、年上美女さんが美少女さんに襲われているに違いない。絶対にそうだ。私がそう決めた。
いや、でも、年上美女さんが夜に豹変するシチュエーションも捨てがたい。美少女さんが、お酒の力を借りた年上美女さんの毒牙に……ぐへへ。
「そういえば、明日は薫ちゃんが来るらしいよ。三人で、また
「そ、そうですか。ちょっと緊張しますね」
「えー、何を今更」
「この間は、なんとか上手くいきましたけど、今度こそガッカリさせないか心配です……」
「大丈夫だよ。ハルさんのすっごい良かったって喜んでたじゃん」
「明らかに三人の中で私が一番下手でしたよ……。気を使わせてしまったに違いありません」
「そんなことないって。大丈夫だよ」
「わ、私が経験少ないの知ってるくせに……」
「だからこそ、場数踏まないと。いい機会だし、薫ちゃんには実験台になってもらっちゃおう」
「そんな言い方したら、また喧嘩になりますよ」
な、なんかもう一人の女の子が百合空間に加わっているらしい……。
いったい何をする気なんだ……。三人で、とか言ってたけど?!
あ゛あ゛あ゛あ゛、自分の妄想で脳が溶かされる!
「まあ、次も簡単にできるクッキーとかにしようか。あたしの家にオーブンあるし」
「この歳になって、お菓子作りに挑戦するとは思わなかったです……」
「あはは、良いことじゃん。何事も経験ってねー」
三人でクッキーのようにスウィートな空間を作っているという意味だろか……。
ああ、いい! 最高だよー!
「あ、あの……お姉さん。会計してもらえます?」
気づけば私のレジには5人ほどの人が並んでいた。随分とトリップしていたらしい。
やれやれ、今日もお仕事が大変だ。
こういう時は思考回路を並列分散させる。私がアルバイターとして、一年という長い月日を経て習得した秘技だ。
バーコードを左目の端で捉えてレジ打ち。右目で百合カップルを追い妄想に耽る。
百合を追い求めるが故に、私が編み出してしまった禁断の奥義。技名は特にない。
「にしても、三人だと流石に狭いから、もうちょっと広いところがいいんだよね。ハルさんの家は広くないの?」
「私の家もリホさんと同じくらいか、むしろ少し狭いくらいですよ。私は普段しませんし」
ベッドの話か? ベッドが狭いって話か? そうなんだね?
「あ、あの、それ、私の籠じゃないんですけど……」
「はい、かしこまりました。レジ袋はご入用ですか?」
「いや、話聞いてます!? それ隣の人の買い物かごだから! お会計凄いことになっちゃってるから!」
「ポイントカードはお持ちですかー? お会計14,220円になりまーす」
「店長さーーん!」
私の名前は浮ケ谷喜子。人呼んで、百合ハンター喜子だ。
――知らんけど。
「あれは三人で並ぶキッチンじゃないね」
「そうですねー」
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