第11話
「単刀直入に言うけどさ。あたしは、最後に話した日の薫ちゃん、頭おかしいと思ってた。あんなん、二股かけようとした男が悪いに決まってるし。なんで、あたしが怒られないといけないわけ? マジでウザかったんだけど」
「えっ……オブラートは?」
「ごめん、今はハルさんいらない」
そうですか。私はいりませんか……言い方キッツいですね。
それにしても、いつも気遣いに溢れる学園のアイドルが、誰かに対して
クラスの子たちが今のリホさんを見たら、開いた口が塞がらなくなるのではないだろうか。
傷心の薫さんには、さぞ響く言葉だったはずだ。
「そ、それは、否定できない……けど……」
薫さんの方を見れば、意外にも、先ほどまでのオドオドした雰囲気が薄れていた。素のリホさんの言葉で緊張がほぐれたのだろうか。
むしろ、少しだけ勝気な印象を受ける目つきになっている。
「けど? 何?」
「い、言わせてもらうけどさぁ!里穂ちゃんも里穂ちゃんだから! なんで私の彼氏紹介するって日に、あんな際どい服着てくるの!? めっちゃ胸元強調するじゃん! パンツ見えそうなスカート履いてるし! 通り過ぎる人たちみんな見てたわ! 完全に勝負服じゃん!」
「え? リホさん、そんなことしてたんですか?」
リホさんが目を逸らした。本当にやってしまったらしい。
リホさんの意図は分かる。たぶん、薫さんに見て欲しかったんだよね……。
うんうん、分かる。分かるけどね。流石に貴方がそれをやっちゃダメですよ。
芸能人みたいなルックスのリホさんが際どい勝負服を着て登場したら、普通の男子高校生なんて
それでも、彼女持ちの男が他の子に手を出そうとするのは論外だけど。
「い、いや、それにしたって、あたしが悪いことにはならないでしょ。彼女を放って他の女に詰め寄る男が悪い!」
「それはそう!」
なんだかんだ同じ結論に着地できたようで何より。しかし、二人は未だ肩を怒らせながら顔を合わせている。
「なんで、あたしじゃなくて、あんなクズ男をとったの!」
「あのときは彼氏が一番だったの! でも、あのあと1週間で別れた!」
「じゃあ、すぐに連絡して欲しかった!」
「あんな酷いこと言って、私から行けるわけないもん!」
「それでも……あ、あたし……寂しかった!」
「私も! すっごい……後悔してた……だから…………」
いつの間にやら、二人とも鼻をひくつかせてボロボロ涙を流していた。
先ほどまでの余所余所しい二人の態度では分からなかったけど、もしかすると、私なんかよりもずっと深い関係を築いていたのかもしれない。
ちょっと悔しいような……。いや、かなり悔しいか。
心配して気遣ってみれば、なんて事はない。痴話喧嘩を見せられていたらしい。年甲斐もなく、いじけてしまいそうだ。
「ごめん、里穂ちゃん。私、里穂ちゃんに酷いことした」
薫さんの涙が落ち着くと、彼女はリホさんに謝罪する。リホさんは、口を尖らせて薫さんを見ていた。
まだ腹の虫が治まらないのだろうか。
「あのときは、ほんとに彼氏の事ばっかりだったんだよ。初めての恋人でテンション上がってて。それで里穂ちゃんに自慢してみたりさ……」
「あたし、あの人に会いたくなかった」
「うん、ごめん。そんな気はしてた……」
「あった瞬間から、あたしの胸ばっか見てて、気持ち悪かった」
「そ、それは、あんたも悪い……けど、ごめん」
「あたしのこと、……もう怒ってない?」
「むしろ、私が里穂ちゃんに許してほしい。……許して、くれる?」
「………………いいよ。あたしも、酷いこと沢山言って、ごめん」
こうして、二人は和解することができた。
結局、和解してからすぐに、二人は近況の報告やら雑談に花を咲かせている。
私はというと、リホさんから振られる言葉に相槌を打つだけのマシーンになっていた。
いい年の女が、女子高生同士の姦しい会話に巻き込まれるのは疲れる……。
ふと時計を見て、思わず私は立ち上がった。
「あ!薫さん! 時間は大丈夫なんですか?」
「え……ああ! ヤバイ! 母さんに怒られる……!」
「で、ですよね。ここに来てから、とっくに30分過ぎてます」
薫さんはリホさんからの急な誘いに乗るとき、 30分程度なら問題ないと言っていた。
しかし、時計を見れば、あれから小一時間は経っている。
「ありがとうございます!ええっと……ハルさん、で合ってますか?」
「ああ、そういえば自己紹介もしてませんでした。三波千晴です。ハルは渾名ですね」
「三波さん……。私は立花薫っていいます。今更ですけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぺこりと互いに頭を下げる。顔を上げると、薫さんからは、リホさんと少し似た明るい花のような笑顔を向けられていた。出会った時とは全然表情が違う。
薫さんとは、また近いうちにお会いする機会がありそうな予感もある。
「じゃ、私は帰るよ。またね! 里穂ちゃん、三波さん!」
「うん。またね、薫ちゃん!」
「はい、また」
二人が手を振り合う。私もそれに倣って薫さんへ手を振った。
扉が閉まるのを見守るリホさんは、名残惜しそうにしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。