スキルある世界で三分以内に蘇生しないと復活出来ない件 ~ユニークスキル『ドッペルゲンガー』を隠した俺は僧侶の拳に沈む~

蒼田

1:

 マリアには三分以内にやらなければならないことがあった。


「蘇生! 蘇生! 蘇生! なんで……なんでアレクがっ! 」


 仲間を守るため一人ドラゴンと相討ちを果たした戦士アレク。


 僧侶のマリアが何度も蘇生を試みるも、効果は見られない。

 それもそのはず。

 彼女の蘇生は三分以内に施さなければ効果はない。

 アレクが一人出て行ったことに気付いた他のメンバーが、横たわっていた彼を見つけた時にはもうすでに何時間も経っていた。


 必死にマリアが蘇生を試みる中、悲痛な面持ちで彼女をみるメンバー。

 耐えかねて一人の男性が声をかける。


「お、おい。もうそろそろ……」

「ダストは黙ってて! 」

「現実をみろ! ここで俺達が足を止めてても仕方ないだろ! それにここは魔物蔓延る森だ。こうしている間も俺達は危険に晒されている。一人で突っ込んで行ったこいつの想いを踏みにじる気か! 」

「蘇生……蘇生できるはずなのよぉ……」


 マリアは力なく項垂れる。

 その様子をみた魔法使いの女性ミリーがマリアを気遣いその場から離れる準備を始めた。


 ★


 ――出ずらい。


 大声で叫びながらアレクに蘇生を駆けているマリアを物陰から見ているひとりの男性がいた。

 彼の名前はアレク。

 そう。今必死に蘇生を施されている人物その人であった。


 (俺のユニークスキル『ドッペルゲンガー』をあいつらに明かすわけにはいかなかったとはいえ、こんなことになるとは)


 取り乱したマリアを見ながらアレクは嫌な汗をかいていた。


 スキルある世界で、彼はドッペルゲンガーというユニークスキルを保有している。

 しかしユニークスキルが発現割合は国に一人程。

 見つかれば大騒ぎどころではない。

 自分の身の為にも極力使わない方針であったが、ドラゴンの脅威も見逃すわけにはいかなかった。


 アレクという戦士は長い間一人で魔物対峙を行っていた。

 辺境の村で田舎暮らしをしていた所、冒険者パーティーに勧誘されて現在に至る。


 (しかしいつも攻撃的だったマリアがこんなにも取り乱すとは……。案外嫌われてなかった? )


 共に様々な所を旅する中で、マリアのアレクに対する態度はデレのないツンデレ。

 つまり「嫌な女」である。


 (よく「おっさん臭い! 」、「離れろジジイ! 」、「死んじまえ! 」なんて言われていたがこれまた可愛い所もあるじゃないか。……いやまて。今なら出て行っても大丈夫なのでは? )


 よく観察して、ふと思う。

 彼は最初この状況を見た時は「このまま村に帰っても良いかもしれない」と思ったが、騒がしい彼女達がいない日を想像し寂しさを覚えた。

 元よりアレクは今のメンバーが嫌いではない。


 少し下品だが陽気で話の合うダスト。

 ミステリアスだが時々見せる幼さが可愛い魔法使いのミリー。

 そして現在彼の中で評価が爆上がり中のマリア。

 

 高い戦闘能力を誇りながらもどこか危なっかしい彼女達を思い出し、意を決する。

 そしてアレクはガサガサっと音を立ててマリアに声をかけた。


「俺が死んだと思ったか? 」


 アレクが軽く手を振りながら声をかける。

 一斉に彼に注目が集まる。

 そして彼女達の表情がどんどんと青くなっていく。

 信じられないものをみた、といった表情だ。


「ア、ア、ア……」

「おうアレクだ」


 マリアが壊れた機械のように「ア……」と声を出す。

 彼女がよろりよろりとアレクの方へ近づくと、アレクは何かに気が付いたかのように両手を広げる。


 (さぁマリア。飛び込んでこい)


 アレクの思いが通じたのか僅かにペースを上げるマリア。

 アレクは目を閉じ思いっきり抱きしめようとしたが――。


「ア、ア、ア……ア"ア"ア"ア"ア"!!! 」

「ごばふぁっ!!! 」


 ――ズドン!!! メキメキメキ!!!


 出るタイミングを間違ったアレクはマリアの拳をその身に受けて重傷を負った。

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スキルある世界で三分以内に蘇生しないと復活出来ない件 ~ユニークスキル『ドッペルゲンガー』を隠した俺は僧侶の拳に沈む~ 蒼田 @souda0011

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