時を経て、少女らは

梅林 冬実

同窓会にて

「そりゃ20,000円も払うんだから豪勢じゃなきゃいやよ」

なんて、誰かの正直すぎる発言が耳に届く。

香奈も密かに同意する。


創立100周年

卒業した普通科が設置されて50年

香奈たちが卒業して20年


という記念すべき年なのだそうだ、今年は。だから同窓会はとても豪華なものになるし、マスコミ取材もあると聞いて浮足立っていることは間違いない。この場にいる、誰も彼も。


 じき40歳に手が届く年齢になっても、クラスメートと再会すれば学生時代に戻れるのだから、人間とは実に現金なものだと思う。

「あっ!香奈ー」

吉井奈美が手を振っている。

「久しぶり!元気してた?」

と笑顔で返す。18歳に舞い戻った少女たちはそれぞれに、笑顔と話に花を咲かせる。


香奈は濃紺シルクのアンサンブルを選んだ。ヒールはイタリア製のもの。お気に入りのブランドだが頻繁には買えない。夫の稼ぎはそれなりだが2人の子供を抱えて贅沢などできっこない。香奈も現実に抗うことなく、大人しく働きに出ている。主婦は平日の昼間暇を持て余していたなんてのは、大昔の寓話でしかない。


 日曜の昼下がり、ハイクラスホテルのバンケットホール。確かにメディアと思しき見知らぬ男女が誰かしらに話しかけているが、テレビカメラは入っていない。

「なーんだ」と少々、ふくれてみる。折角お洒落してきたのにと。

「何?『ズッパイングレーゼ』って?」

間延びした声が聞こえ、誰かがイタリアのデザートだと教えている。6つ並べられたテーブルの上には、色とりどりのフルーツやドルチェやサラダや煮込み料理がずらりと並んでいる。カクテルも目に鮮やかで眺めているだけで楽しくなる。


「私たちも食べよう」

奈美に声をかけその辺の数人と料理を選ぶ。記者と思しき一団は頻りに同じ女性に話しかけていて、香奈はほんの少しそちらを見てみる。覚えのない人だと思った。

「誰だっけ?」

香奈の疑問に奈美はさも驚いたかのように

「何言ってるの、坂野さんじゃない」

「坂野さん?」

声に出して思い出す。唇がその人を思い出させたと言っていい。高校3年間同じクラスだったけれど、遂に「茜」という名を呼ぶことはなかったその人。「粘土」というあだ名を付けられたその子は3年もの長い間、クラスどころか学校全体から浮いていた。誰ともつるまず誰からも相手にされず、けれど優秀な成績を収め、常に学年トップだった越上あざみを超えることは遂になかったが、地元国立大学に進学した優等生。

香奈の、心の負担でもある人。

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