ゴリラ物語特別編🦍🍌✨ 〜3分以内にしなければならないこと〜

ほしのしずく

第1話 3分以内にしなければならないこと🍌

ゴリラには、3分以内にしなければならないことがあった。


それは……バナナを食べること。


それも、もうスウィートスポットどころか、黒ずんだ茶色い……バナナだ。


「ウホ……」


ゴリラはキッチンで、その黄色から茶色へと変わってしまったバナナを黒く大きな手で優しく包み込んでいる。


その表情は、いつになく真剣そのもの。


「……ウホ」


なぜ、ゴリラがそこまで真剣な表情をしているのかは、ジムへ通う前にお取り寄せした高級バナナのNEXT716が見るも無惨な姿となっているからだ。


茶色いだけなら、バナナこそ至高の食べ物と考えている彼にとっては些細なことでしかない。


それにジュースにするなら、茶色いくらいがちょうど甘さも出て美味しくなる。


だが、その手にあるバナナは、明らかに鼻につく臭いがしている上、優しく包むように持たないとバナナの原型を留めておけないほどに柔らかい。


つまり、傷んでいるのだ。


これは、ダイエットに夢中になり過ぎて買ったバナナを忘れてしまった彼の不注意。


「ウホゥ……」


そんな自身の致命的なミスに肩を落とすゴリラ。


そして、時刻は7時12分。


もう、いつもの電車に乗るにはあと3分しかなかった。

それまでに、このバナナをどうにかしないと大事な朝の会議に間に合わない。


選択肢は、捨てるか。


冷蔵庫にある牛乳でバナナジュースにして、誤魔化すか。

そのまま食べてしまうかの3択だ。


「ウホウホ!」


バナナを両手で抱えながら焦るゴリラ。


その額からは僅かに汗が出ている。


バナナを捨てるということだけは、彼の辞書にはなかった。


そもそもこうなったのは自分の不注意であり、バナナは何も悪くないのだから。


「ウ、ウホ!!!」


そんな中、彼はある考えに至る。


というよりは、インテリがゆえに野生の感を無視した、一周回ってインテリではない考え方だった。


それは、大体のことはプラシーボ効果で、どうにかなるんじゃないかという、ゴリラにしてはありえない安直な思考。


言うなれば、病院に行って薬を処方してもらうだけで、少し気分が落ち着くとの同じ現象だ。


だから、これはこの手にあるオンリーワンのバナナは、決して傷んでおらず、自分が心からバナナを信じればバナナも応えてくれてる。


なので、大丈夫だと。


そう信じた彼は、ひと思いにバナナを口に放り込む。


「……ウホ……ウホ」


念の為に鼻を摘んでだ。


それはこの立派な鼻の嗅覚だけは、幼い頃と同じ食べてはいけない物をちゃんと判別していたから。


「ウホ……ッ」


そして、本能に抗い咀嚼し、ゴクンと飲み込んで社宅を出た――。



🍌🍌🍌



――この後。


駅のトイレから、ゴリラの悲痛な鳴き声とカランカランというトイレットペーパーを取る音が聞こえてきましたとさ。



🦍🍌🦍🍌🦍🍌🦍🍌

🍌  ウホウホ……🦍

🦍🍌🦍🍌🦍🍌🦍🍌

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ゴリラ物語特別編🦍🍌✨ 〜3分以内にしなければならないこと〜 ほしのしずく @hosinosizuku0723

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