日付が変わる前に
月村 あかり
日付が変わる前に
それを達成するために、徒歩3分の隣の家まで足を走らせる。
もう機嫌は損ねてしまっているので、必ず3分以内に間に合わせて挽回しなければならない。
「
玄関を許可なしにばたんっと開ける。
すると、不機嫌そうな幼なじみと目が合う。
こんな日にこんな表情をさせるなんて自分を情けなく思うが、それよりも前にするべきことがある。
「これ、受け取ってくれっ」
蒼は、手に持っていた包みを凛津に差し出す。
凛津は、一瞬迷ってから手を伸ばして包みを受け取ってくれた。
とりあえず3分以内に、ミッションはこなせたみたいだ。
「本当は忘れてた癖に…。私の事なんてどうでもいいくせに…」
そう、今日(とは言ってもあと1分も経たずに終わってしまう)は幼なじみであり彼女でもある凛津の誕生日だったのだ。
最近、補習にバイトに部活にと予定が立て込んでいてなんのためにバイトを始めたのかすっかり見失っていた。
デートも我慢させているような日々が続いていたのだから、凛津が怒るのも当然のことだ。
「どうでもいいわけないだろ!って、実際忘れてたやつが言っても信憑性ないよなぁ…」
正直自分にガッカリした。
だって、凛津には片思いし続けてやっと高2の夏にやっと告白できてOKを貰ったのに。
付き合ってから一番最初の誕生日プレゼントは最高のものをあげたくてバイトだってしていたのに…。
その忙しさにかまけて肝心の誕生日当日を忘れるとかありえない…。
「もういいよ。くれただけで、嬉しいし…」
そう言って本当に愛おしそうにプレゼントをなぞる凛津。
そっとリボンを解いて、包みを開ける。
せめて、喜んでもらえるプレゼントならばいいんだけど…。
「あ、素敵…」
開けた箱の中を見て、凛津が声をあげた。
言ってしまうと、初めてのバイト代が入った時我慢しきれずにもうプレゼントは買っていた。
不機嫌そうな凛津を見るまで誕生日だったことを忘れていた自分さえいなければちゃんと渡せていたはずなのだ。
「ありがとう、大事にする」
そんなに高価ではないけれど、キラキラとした石がついているネックレス。
凛津はすぐに身につけて、いつもの優しい笑みをくれた。
あー…俺って幸せ者…。
「あ、日付変わったよね?」
凛津の問いに、僕は腕時計を確認する。
時刻はしっかりと12時を回っていた。
僕が頷くと、凛津が僕にリボンで結ばれた包みを差し出してきた。
「誕生日、おめでとう」
そこで僕は、今日が自分の誕生日だと思い出した。
凛津と1日違いで、小さい頃は周りの奴らによくからかわれたっけ…。
覚えていてくれた嬉しさと、自分が凛津の誕生日を忘れていたことへの申し訳なさが加速する。
「あ…」
包みに入っていたのは腕時計だった。
ベルト部分がボロボロになっていて、買い替えたいと言っていたのを覚えていてくれたらしい。
嬉しい…嬉しすぎて泣いてしまいそうだ…。
「もう…そんな情けない顔しないでよ。ほら、今日はもう寝てさ、明日は2人分の誕生日一緒にお祝いしよう?」
凛津が手を差し伸べてくる。
どこまで理想を詰め込んだ彼女なんだろうか…。
俺は差し出された手をそのまま引き寄せて凛津を抱きしめる。
「愛してるよ、凛津〜」
溢れ出た想いを伝えると、凛津は顔を背けた。
耳が赤く染まっている。
その仕草に愛しさが加速して抱きしめる手にさらに力を込めた。
「あと3分はこうしてたい…」
「もう…仕方ないなぁ…」
呆れたように言いつつ、凛津も蒼の背中に手を回してくれる。
幸せに浸りながら、俺の誕生日は一生忘れられない思い出になった。
日付が変わる前に 月村 あかり @akari--tsukimira
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