黒猫ベベの大冒険

武藤勇城

第1話 恐怖の館

 ボクの最初の記憶は、ママの感触と匂いだ。

 それは、温かくて、甘くて、幸せな記憶。

 真っ暗闇の世界でも、安心して眠れたんだ。


 世界に光が差して、どこにでも行けるようになった。

 目に入るもの全てが新鮮で、刺激的で、楽しい記憶。

 ママの周りを走り回って、何でも真似して、疲れてぐっすり眠ったんだ。


 幸せで楽しい毎日は、長くは続かなかった。

 ボクはママから引き離され、カゴに入れられた。

 ママー、怖いよー、助けてよー、何度叫んでも無駄だった。


 冷たくて固いカゴの中で、ボクは見知らぬ場所へ連れ出された。

 何だか分からない、でっかい生き物が、カゴを軽々と持ち上げた。

 物凄く大きな音がして、グラグラ揺れて、ボクも大きな声で叫んだ。


 轟音が静まると、ボクはまたどこかへ運ばれた。

 ママと一緒にいた時と同じ、だけどどこか違う場所。

 ボクを運んだでっかい生き物は、ここをアタラシイイエダヨと呼んだ。


 アタラシイイエダヨに着くと、カゴが開いた。

 だけど、でっかい生き物が入り口の前にいた。

 大きな手を伸ばして、ボクを捕まえようとするんだ。


 もし捕まったら、何をされるか分からなかった。

 ボクは怖くて、大慌てで逃げて、カゴの壁をよじ登った。

 執拗に襲って来るから、必死に威嚇し、反撃してやったんだ。


 そんな戦いを続けると、ようやく敵は諦めた。

 遠巻きにボクを見て、何か喋っていた。

 その時、ボクは気付いてしまったんだ。


 このでっかい生き物は、一匹じゃなかった!

 同じ大きさのがもう一匹、すぐ近くにいた!

 一匹でも恐ろしいのに、二匹もいるなんて!


 ボクは恐怖に震えて、カゴの隅でお漏らしをした。

 遠巻きに、いつ食べてやろうかと狙う敵。

 ボクは、いつまで生き延びられるだろう。

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