KAC2024用短編集
葉月瞬
三分間の膨張
私には三分間でなさねばならぬことがある。
まず蓋を開ける。
かやくをカップの内側、乾麺の上に重なるように振り入れる。
お湯を注ぐ。それも、規定量の熱湯だ。熱湯だから十分注意しなければ火傷してしまうだろう。そのへんは抜かりない。
そして
蓋をきっちり閉めて、勝手に開かないように割る前の割り箸で端を挟む。
時計を確認して、三分間待つ。
ふと気になることが閃いた。
そう、洗濯だ。先程、洗濯機のスイッチが切れる音を聞いた。前日の深夜に予約ボタンを押して、午前中に終わるように調整しておいたのだ。
早く干さないと臭くなってしまう。そう、何かに急かされるように私は立ち上がった。
洗濯物を洗濯かごに入れる。干し場へと持っていく途中で、台所を通る。ふと
私は洗濯かごをその場に置くと、洗い物を始めた。一通り洗い終わると、再び洗濯かごが目に入る。
(もう、臭くなっているんじゃないのか……?)
体感時間がどのくらい経っているのか分からないから、戦慄を覚えた。
再び洗濯を干す行動を再開することにした。
臭いを確認すると、微妙に洗剤の芳しい香りが残っているように思える。昨今の高性能洗剤に感謝しつつも、洗濯物を干した。
洗濯物を干した後、ふと今日の日課がまだだったことを思い出した。
テレビとプレイステーション4の電源を入れる。
テレビ画面に独特の曲が流れ、メイン画面が立ち上がる。MORPGのログイン画面を一通り堪能した後、フィールドに降り立つ。
ログインボーナスと日課をこなす。いつも通りなのでほとんど作業でしかないが、これをやらないと損した気分になるので欠かせない。もう、ゲーム脳と言って差し支えないだろう。
作業を一通り終えて立ち上がると、ふとテーブルの上に置かれたままのカップ麺が目に止まる。
先ほどお湯を入れて待っていた例のアレだ。
時計を確認する。
あれから三時間ほど経っているような気がする。
私は今までのやらかしがフラッシュバックした。
慌てて蓋を取る。
当然ながら麺は膨張していた。
まさか、三分間が三時間に膨張するとは。この宇宙の神秘的事象に恐れ慄いた。
了
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