時間切れ
阿々 亜
時間切れ
和人の目の前には同い年の少女、
空野和人と白井芽衣子は同じ学校に通う高校2年生で、1年前から付き合っていた。
だが、和人が奥手過ぎるため、二人の関係は一向に進展していなかった。
そんなある日、しびれを切らした芽衣子は和人にある無理難題を突き付けることにした。
「3分以内にキスしてくれなかったら、あなたにはもうあげない……」
そう言って芽衣子は和人に顔をつきつけ目を閉じたのだった。
そこは芽衣子の家のリビングだった。
その日、学校が終わったあと、二人はいつものように一緒に帰っていた。
道すがら芽衣子は話を切り出した。
「今日、お父さんもお母さんもいないんだ……だから、一緒に……ね……」
そうして、和人はあれよあれよと芽衣子の家に連れ込まれたのだが、気が付くとこんな状況に置かれていた。
二人しかいないリビングで、二人は微動だにせず立っていた。
和人は身長170㎝弱の細身に黒い短髪で、普段は優しそうな穏やかな眼をしているが、その瞳は今ぐるぐるとあてもなく泳ぎ、全身からだらだらと冷や汗が流れていた。
芽衣子の身長は160cm少々で若干ふっくらしており、黒いストレートのセミロングで、いつもいたずらっぽい笑みを浮かべているが、今は真剣な表情で固く目を閉じている。
芽衣子は目を閉じたまま、「10秒経過……20秒経過……」と無慈悲にカウントダウンしていく。
そして、時は過ぎた。
「3分経過……ハイ、残念、時間切れ」
そう言って芽衣子は目を開けた。
芽衣子は椅子に座り、テーブルの上に置いてあるカップラーメンに手を伸ばし、蓋を開けた。
「約束通り、和人には一口もあげないからね!!」
そうい言って芽衣子はべっと舌をだした。
芽衣子はご当地ラーメンマニアで通販でご当地カップラーメンを購入しては和人を家に呼んで一緒に食べていた。
芽衣子がなんの気兼ねもなく和人を家に連れてくるので、芽衣子の家では二人の関係はほぼ家族公認となっていた。
だが、今日はちょうど両親が遠出していたので、お湯を入れて3分間待っている間に和人にこんな無理難題をふっかけたのだった。
おいしそうにラーメンをすする芽衣子の横に和人はおずおずと座った。
今日、芽衣子が用意したのは宮城県の辛味噌ラーメンで、ご当地カップラーメンの人気ランキングで常に上位をキープしている商品だ。
味噌の香りが隣にいる和人の鼻にも襲ってくるのだが、精神的ダメージで和人はそれどころではなかった。
そんな和人をよそに、芽衣子はあっという間にラーメンを食べ終わってしまった。
「あー、おいしかった!! こんなにおいしいのに食べられなくて、和人、本当にざんね……」
芽衣子の言葉がそこで途切れた。
芽衣子の唇に和人の唇が重なっていたのだ。
数秒で唇を離し、和人は真っ赤になって上を向く。
「“時間切れ”って言ったでしょ……もう、のびてるよ……」
芽衣子は不満げな口調でそう言うが、その頬は微かに赤らんでいた。
和人は和人で、無言のままそっぽを向く。
何か気の利いた一言でも言えればいいのだろうが、何も言葉がでてこなかった。
二人の口には、ぴりりと辛い味噌味がかすかに残ったのだった。
時間切れ 阿々 亜 @self-actualization
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