AとB

スズキ

第1話

 Aには三分以内にやらなければならないことがあった。


 隣で寝ているBを、時間内にどうにかしなければならない。彼女はすっかりと深い夢の中で、まだ決断を渋っているのはAの方であった。どちらにせよ、叩き起こしたところで出口はひとつ。そして入り口もまた然り。


 さて覚悟を決め、どの方法にしようか、と考えている時間もほとんど残されてはいないのである。刻一刻と迫りくる、タイムリミット。まるで足音が空耳で聞こえてきている気がしてしまうほど、Aは焦っていた。冷や汗が流れる。


 もう、仕方がない。本当はもっと別のやり方があったのかもしれない。けれど、やるしかない。やらねば、引き離されるのだから。


 苦渋の決断を下したAはそうして、気持ちよさそうに寝息を立てていたBの首へと手をかける。ぎりぎりと、力を込める。苦しそうに悶え喘ぐBは急に目を見開いて、じたばたと手足を動かす。


 Bの目には生理的な涙が浮かび上がったが、Aはそれをさも愛しそうに見つめると、恐ろしいほど美しく笑う。ついに零れ落ちてしまった一滴を、勿体ない、とでもいうかのように舌先で掬った。



「ああ、ごめん、ごめんね。ねえ、愛しているよ。すぐに、追いかけるから」



 Bの体がびくんと跳ねて、グエ、とまるで聞いたことのない鳴き声を発したかと思えば、そのまま動かなくなった。そこでようやく、Aは開放されたかのように、Aは、動かなくなった、まだ温もりを持ったBの唇へ、自らの唇を重ねたのだ。Bの表情は、どうしてだろう。とても穏やかだ。


 ああ、でもこのやり方がやはり一番、美しかったのかもしれない。


 そう考えながらAは、己の頭をぶち抜いた。


 愛するB、彼女を美しいまま、殺す方法。その美しい肢体を傷をつけることなく、自らの手で彼女の最期を作り出す方法。弾をねじ込むことなんかよりも、合理的な方法じゃないか。そして、世間に思い知らせてやるのだ。ああなんだ、良かった。


 遠のいた意識はそのまま戻ることはなく、彼女に重なるようにして倒れこんだAは、結局、流れる自らの赤で彼女を汚してしまったことを、もう知ることはできない。



『速報です。都内で発生していた監禁、立てこもり事件について、先ほどお伝えした突入時刻より前に発砲音がし、それと同時に特殊犯捜査係SITが緊急突入しましたが、監禁されていたとみられる女性は意識不明の重体。また、犯人とみられる女も自らの頭部へ発砲、その後死亡が確認されました。現場からは遺書のようなものが見つかっており、被害者と犯人は恋人関係だったことが記述されていたと警察関係者から確認できました。なお、この事件についてSNS等では多様性を訴える声が大きくあがっています』

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AとB スズキ @hansel0523

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