見えない水平線
moon
第1話
海に来た。
水平線が見えるか見えないかぐらいの、曖昧な天気。それはまるで自分の感情を表しているようで虚しい気持ちになった。
隣にいる彼もどこか寂しげな目をしていた。
きっと私と同じで水平線を探しているのだろう。
だんだん暗くなって街灯に灯りがついてきたと同時に私たちも煙草に火をつける。
息を吸うと煙草の先がふわっと明るくなる。
ラッキーストライクを持つ彼の横顔は悔しいぐらい綺麗で、怖かった。
これが最後だと、確信してしまったのだ。
「おそろい」
そういった彼の言葉と声が頭にこびりついて離れない。彼になりたくて同じ銘柄にしてしまったあの日を思い出す。
あの日、ライブハウスで歌っていた彼は観客全員の目の惹きつけていて、私もそのうちの1人だった。
一緒に歌詞を口ずさみながら、目の前にいる彼をどこか他人だと感じ、寂しくなった。
そんなことを思い出していたら、日は完全に落ちていた。
今日が終わりませんように。
そんな無駄な願い事をしながら彼のスマホから流れるAge Factoryを聴いていた。
「5分間」
彼が言った。
この煙草を吸い終える時間らしい。
私はなぜか世界五分前仮説を思い出した。
20分前に見た水平線も、煙草も、彼の横顔も
全部5分前に植え付けられた記憶だとしても
それを否定することはできない。
でも、私の記憶には確かにそれがあって
そんな仮説痛くも痒くもないと思える半年だった。
手から彼の体温を感じながら浜の方へ歩いた。
冗談でも綺麗とは言えない海を見ながらしばらく2人、突っ立っていた。
私の日常はもう、彼によって形成されていた。
誕生日に開けてもらった右耳のピアス、夜通し飲み明かしたあの公園、深夜に行ったあの居酒屋、私のプレイリストには彼の好きな曲ばかりが入っていた。
私も彼の日常に残っているだろうか。
最後の煙草に火をつける。
また、この愛した日常と愛した彼にただいまって言えますように。
私は海へ消える。
忘れられない4月27日。
見えない水平線 moon @andy0221
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