婚約破棄ですか、『夢印良品』のあの方は?

uribou

第1話

「ロザリンド・ヒースクロック公爵令嬢! ボクは君との婚約を破棄するのさあ!」


 王家主催の夜会で、わたくしの婚約者ギデオン王太子殿下が宣言します。

 ……陛下御夫妻が慌てていますね?

 どうやら陛下御夫妻の承諾を得ていない、予定外の行動のようです。


 元々わたくしはヒースクロック公爵家の一人娘にも拘らず、陛下御夫妻のぜひともという希望で殿下の婚約者となったのですが……。

 殿下はわたくし基準の『良品』ではありませんから、惜しくはないです。

 ただ厳しいお妃教育がムダになったことは残念ですし、わたくし自身が傷物と呼ばれてしまうのは切ないですね。

 それ以外は、まあ、はい。


「これなるエリー・ホーガン男爵令嬢を新たな婚約者とするのさあ!」


 わたくしの返事を待つまでもなく、新たな婚約者の発表ですか。

 ギデオン殿下が左手で抱きかかえるエリー様は、輝くようなピンクブロンドの髪とつぶらな瞳を持つ、それはそれは可愛らしい令嬢ですけれども。

 ……おつむの方は並みですよ?


 あっ、ちょっと待ってくださいな。

 ホーガン男爵家って商家上がりの新興男爵家でしょう?

 特に親しい関係の高位貴族もないですし、ギデオン殿下の後ろ盾としてはないも同然ではないですか。

 何か目論見があって……殿下ったら自分の王太子という立場を過大評価してるんじゃ?


 チラリと陛下の方を見ましたら、既にフィリップ第二王子殿下が呼ばれて何事か話しています。

 公の場で殿下がなした婚約破棄宣言が消え去るわけはありません。

 ギデオン殿下は太子から降ろされて、フィリップ殿下が太子となるようです。

 王家の決断は早いですね。

 ならばわたくしのできることは一つだけ。


「婚約破棄、承りました。では失礼いたします」


 パーティー会場を後にします。

 父が天を仰いでいますが、これは仕方ないですよ。

 天災みたいな人災ですから。


          ◇


 ――――――――――翌日。


 父の書斎に呼び出されました。


「ロザリンド、よく寝られたか?」

「それはもうグッスリ」

「婚約破棄されたばかりだというのに、大物だな」


 アハハウフフと笑い合います。


「これも計算通りなのか?」

「まさか。公開婚約破棄などということが我が身に起きるとは、驚いてしまいましたわ」

「しかし以前からギデオン殿下には見込みがないと言っていたろう? そなたのギフトで」


 わたくしは一万人に一人の割合で存在すると言われる、所謂ギフトと呼ばれる異能を持っているのです。

 わたくしのギフトは『夢印良品』というもの。

 夢の中で見たものの良し悪しがわかるのですね。


「残念ながらギデオン殿下は王の器ではありませんでしたね。お父様にはお父様の目論みがあったのかもしれませんけれども」

「こう言っては何だが、今となるとギデオン殿下の見込みがないというのはわかる。ただロザリンドは五年前からそう言ってたであろう?」

「ギフトのおかげですよ」


 でも国とは一人で治めるものではありませんからね。

 優秀な家臣とわたくしが公私にわたって支えれば、何とかなるだろうと考えておりました。

 お父様もそう思っていたことでしょう。

 甘かったです。


「……ロザリンドは、ヒースクロック公爵家の後継ぎを決めるなと言っていた。婚約破棄されることを念頭に置いていたとしか思えん」

「それはギフトと関係ないですけれども」


 ギデオン殿下とわたくしの仲は、贔屓目にもいいとは言えませんでしたから。

 半分くらいの確率で婚約解消になるかなあと考えていました。

 公開婚約破棄で晒し者になるとは思っていませんでしたが。


 ヒースクロック公爵家の子はわたくし一人です。

 もしわたくしが王太子妃とならないのであれば、当然わたくしがヒースクロック公爵家を継ぎます。

 他家から養子をもらって跡継ぎとする必要がありませんからね。


「ギデオン殿下はどうなる?」

「当然廃嫡でしょう」

「となると、フィリップ第二王子殿下が繰り上がりか」

「おそらくは」


 パーティー会場で陛下とフィリップ殿下がコソッとお話ししていました。

 あれはかなりの人数に見られていたと思います。


「……フィリップ殿下の婚約者としてロザリンドが推される可能性も高いが、どうする?」


 フィリップ殿下はわたくしの二歳年下。

 合わない年齢ではありません。

 わたくしのお妃教育も進んでいますしね。

 何よりギフト持ちであるわたくしを囲っておきたいという意図が、王家にはあるでしょう。

 しかし……。


「……遠慮しましょう」

「フィリップ殿下もダメか?」

「そんなことはありません。なかなか優秀な方だと思います」


 ギデオン殿下と比較すれば、ですけれども。


「ヒースクロック公爵家は引くべき時と見るか」

「はい。わたくしの『夢印良品』のギフトは、一般に知られていることではありません。王家がわたくしを王太子妃とすることに拘ってしまっては、ヒースクロック公爵家に弱みでも握られているのかと思われてしまいますよ」

「ありそうな話だな」


 フィリップ殿下の婚約者を出せそうな他家に恨まれてしまいますしね。


「わたくし以外にフィリップ殿下にお似合いの令嬢がおりますから」

「試みに問うが、それは誰だ?」

「カトリーナ様です。アシュバートン侯爵家の」

「そなたのギフトでの判断なのだな?」

「はい、カトリーナ様ならば間違いないです」


 カトリーナ様もわたくしの夢によく登場します。

 紛れもなく『良品』、フィリップ殿下をお支えしてよき王妃として君臨するでしょう。

 ……おまけにフィリップ殿下はカトリーナ様に御執心ですからね。

 わたくしなどお呼びでないのです。


「ふむ、ロザリンドの意見として報告しておこう」

「お願いいたします」

「して、我がヒースクロック公爵家についてだが」

「……」


 婚約破棄されたからには、わたくしがヒースクロック公爵家の跡継ぎとなることはほぼ確定。

 わたくしの連れ合いも重要なのですが……。


「心当たりがあるか?」

「……ありと言えばあり、なしと言えばなしなのです」

「どういうことだ?」

「夢に出てくる素敵な殿方がいます。ただどこのどなたやらわからないのです」

「ふうん、ロザリンドのギフトにはそんなこともあるのか。今まで言わなかったではないか」

「今までは婚約者がおりましたから」

「ああ」


 ギデオン王太子殿下の婚約者であり続けるなら、夢の殿方などにうつつを抜かすことは許されません。

 ただ状況がこうなると、その方を探すことが必要なのかもしれません。


「どんな男なのだ? 夢で見た素敵な殿方とは」

「年齢はわたくしと同年代かやや上だと思います。身長はわたくしより頭一つ大きい、がっしりした方です」

「ロザリンドより頭一つ大きい? かなりの長身だな」

「ええ、一度見れば忘れるはずがないのですが」

「ふうむ、俺も知らない令息だな。貴族なのだろう?」

「わかりません。立派な振る舞いから貴族だとは思いますが、あるいは騎士なのかも」

「わかった、この際騎士でもかまわん」


 わたくしが傷物だからということと、わたくしのギフトがいいと決めたものならばという、両方の意味があると思います。


「俺も調査しておくが、ロザリンドも留意しておけよ」

「わかりました」


          ◇


 ――――――――――ハンニバル・バルカーサス辺境伯令息視点。


 それはオレが初めて王都に上ってきた日。

 さすがに大きな町だと驚いていた時に、父者コンラッドの気まぐれな一言から始まった。


『おお、そうだ。ヒースクロック公爵家の屋敷に寄っていこうではないか』


 オレがいくらド田舎育ちとは言え、訪問するのに前もって約束なり先触れなりが必要なことくらいは知っている。


『なあに、公爵は寛容なお方であるからな。心配は無用だぞ。公爵の娘御ロザリンド嬢はうつけ者ギデオン王太子殿下の婚約者でな。お前と同学年だからよく顔を覚えてもらえ』

『うつけ者って』


 もうじき兄者が王立学院を卒業するので、入れ替わりでオレが学院に編入することになったのだ。

 真剣に学べということじゃない。

 まあ卒業までの二年間で婿入り先を探せ、適当に交友しろということ。

 父者は王都のことなど何もわからぬオレに、同級でしかも王太子の妃となる令嬢を紹介してくれようというのだ。

 先方に失礼でないのなら、断る理由などなかった。


          ◇


「粗茶ですが」

「は、どうも」


 ヒースクロック公爵家邸にお邪魔したが、話が違うじゃないか。

 つい先日ロザリンド嬢は、王太子ギデオン殿下から婚約破棄を食らったとのこと。

 話題にしちゃいけないことを話題にして冷や汗かいたわ。


 しかし公爵父子は上機嫌だ。

 失礼な田舎者なのに、本当に申し訳ない。

 しかも明らかに父者よりもオレの方に手厚い。

 何故だ?


「ハンニバル君は編入か。ロザリンドと同学年なのだろう?」

「はい。田舎者ゆえ、色々御指導いただきたく」


 さすがに王太子の婚約者であっただけのことはある。

 ロザリンド嬢は才媛なだけでなく、噂以上に美しい。

 思わず見とれそうになってしまう。


「どうだ、うちのロザリンドは」

「は、とても美しいです」

「そうかそうか。コンラッド殿、ハンニバル君をロザリンドの婿にくれんか?」

「え?」


 今何と?


「ロザリンドはヒースクロック公爵家を継ぐのでな。早急に婚約者が必要なのだ」

「おう、構わんぞ」


 こいつら何笑ってんだ。

 オレの意思はともかく、ロザリンド嬢の意思は?

 あれ? ロザリンド嬢喜ばしげだな。

 いや、オレも美人で賢い婚約者ができるなんて嬉しいけど。


「コンラッド殿、ここからは内密の話として頼む」

「うむ、承知」


 公爵と父者の顔が引き締まる。


「実はロザリンドはギフト持ちでな」

「……噂では聞いたことがあったが、本当だったのか」

「ああ。夢で見たものの価値がわかるというギフトなのだ」

「はい。今までハンニバル様のことを『良品』として何度も夢に見たことがあったのです。しかしお会いしたことがなかったので、今日までどこのどなただかわからなくて」

「コンラッド殿の次男だったとはな。いやあ、めでたい」


 何とも不思議な話だ。

 そうか、オレのことを夢で見知っていたからこその歓迎だったのか。

 しかもかなり評価されているらしい。

 どうも面映いが。


「ハンニバルは剣術の技量と体力と根性だけはある。存分に扱ってくれい」

「いやあ、ありがたい」

「……ロザリンド嬢がギフト持ちであること、王家は当然知っているのであろう?」

「もちろんだ」

「取り込むことに拘るのではないか? 例えば第二王子フィリップ殿下の妃にするとか」

「いや、フィリップ殿下の立太子と、アシュバートン侯爵家カトリーナ嬢を婚約者とすることは、既に内定しているのだ。発表はまだだがな」

「つまり、カトリーナ嬢はロザリンド嬢の推薦で?」

「はい。おまけにフィリップ殿下とカトリーナ様は相思相愛ですのよ。ピッタリでしょう?」


 こりゃすごい。

 ロザリンド嬢が黒幕なんじゃないか。

 そのロザリンド嬢を婚約破棄するギデオン殿下とは一体……。


「ギデオン殿下とはどのような方なのです? オレは会ったことがないのですが」


 父者がうつけ者って言ってたくらいだから相当だと思うが。

 三人とも苦笑してるな。


「うつけ者だ」

「何を言っても不敬罪になってしまうのだ。察してくれ」

「ギデオン殿下とわたくしよりも、フィリップ殿下とカトリーナ様の方が絶対にいい国になりますよ」

「ははあ」


 くだらぬ男ということか。

 まあ国中から選ばれた令嬢で、かつギフト持ちのロザリンド嬢を婚約破棄するなんて考えられんものな。


「公爵殿、ギデオン殿下の処遇はどうなるのだ?」

「さて? 私費から当家に慰謝料を払うことと太子を廃されることまでは決まっているが、あとはわからぬな」

「離宮で謹慎という形になるのでは、と聞きました」


 輝かしい未来もあり得ただろうに。

 もったいないことだ。


「ハハッ。いやしかし、ハンニバルが片付くとはめでたいことだ。ロザリンド嬢も我が家に遊びに来てくれ」

「はい、ありがとう存じます」


          ◇


 ――――――――――ギデオン廃太子視点。


 ボクにはバラ色の未来が待っていたはずなのさあ。

 それがどうして離宮に閉じ込められなきゃならない?

 王太子の座をフィリップのやつに奪われ、愛しのエリーとも引き離されて。

 ああ、可哀そうなエリー。

 今頃どんなひどい目に遭っていることやら。


 ロザリンドのせいだ。

 あの女が告げ口したからに違いない。

 ギフト持ちだ何だとつけ上がる魔女。

 父上母上もボクの言うことは聞いてくれないのに、ロザリンドの言うことは聞くんだ。

 憎い女狐め、どうしてくれよう……。


          ◇


 ――――――――――ロザリンド視点。


 今日は王都を案内しがてら、ハンニバル様とデートなのです。

 わたくしの侍女がついてきていますけれども、ハンニバル様はお一人。

 ギデオン殿下の婚約者だった時には考えられない身軽さですねえ。

 とても楽しいです。


「あっ、お嬢様、ハンニバル様。あの屋台の季節の果物のクレープはとてもおいしいのですよ。私が買ってきましょう」

「いや、オレが買ってこよう」

「では、お願いいたします」


 ハンニバル様はキビキビ自分で動くのがお好きみたい。

 侍女が言います。


「ハンニバル様は身長が高いので、どこにいても目立ちますねえ」

「ええ、とっても格好よろしいです」

「まあ、お嬢様ったら。御馳走様です」


 アハハウフフと笑い合います。


「お嬢様は婚約破棄されてよかったと思います」

「そうですね」


 言っては何ですが、ギデオン殿下は全く頼りになりませんでしたからね。

 あの我が儘なギデオン殿下を操縦しながら、王国をわたくしが支えねばならないのかと考えると、どうにも気分が浮き立ちませんでした。

 今は違います。

 ハンニバル様とともにどう公爵領を発展させていこうか、ワクワクします。


「婚約破棄が何なのさあ」


 えっ?

 突然背後からかけられた聞き覚えのある声に身体が硬直します。


「ナイフだ。動くな。声を出すな」

「ひっ……」


 侍女も動けません。

 まさかギデオン殿下?

 何ゆえに?


「ロザリンド、お前のせいだ。ボクが零落れなければならなかったのは」


 いや、殿下の婚約破棄から始まったんですからね?

 逆恨みです!


「お前は死ね!」

「言いたいことはそれだけか。この暴漢が」

「ハンニバル様!」


 いつの間にか戻ってきたハンニバル様が、ナイフを持つ方の腕を捻り上げています。

 さすがハンニバル様。


「やあ、ロザリンド。すまなかったね。先ほどから胡乱なやつが君を見ているとは気付いていたんだ。オレが離れれば何かアクションを起こすかと思ったが、刃物を持ち出すとはな。男の風上にも置けぬやつが」


 何だ何だと野次馬が集まってきます。


「放せ! ボクを誰だと思っている! 第一王子ギデオンだぞ!」

「黙れ、ギデオン殿下の名を騙る痴れ者めが!」

「ばふっ!」


 ハンニバル様のものすごい平手打ち!


「大体ギデオン殿下が供も連れず、庶民面して街中でアホを晒すわけがないだろうが。常識で考えろ!」

「げふっ! あぐっ!」


 ハンニバル様は容赦ないなあ。

 ギデオン殿下の顔がパンパンに腫れてフラフラですよ。

 あ、憲兵が来ましたね。


「何事ですか!」

「オレはバルカーサス辺境伯家のハンニバルという者だ。この不埒者がオレの婚約者を刃物で脅したのでな。少々灸を据えてやった」

「刃物ですと?」

「おう、そこに落ちてるのが証拠品だ」


 やじ馬からも声が飛びます。


「憲兵さんよ。犯人はギデオン王子の名を詐称してたんだぜ」

「そうだそうだ! 厳罰だ!」

「ぼ、ボクはギデオンで間違いないのさあ」

「何を言うか、このエセ王子めが! しょっ引け!」

「御協力感謝します!」

「キリキリ歩け!」

「お、覚えてろよ」


 憲兵がギデオン殿下を引っ立てていきます。

 あれだけ顔がパンパンでは判別がつきませんものねえ。


「ハンニバル様、ありがとうございました」

「ハハッ、あんなものは朝飯後のクレープ前さ」


          ◇


 ――――――――――その日、ヒースクロック公爵家邸に帰宅後。


「ほう、やはりあれは本物のギデオン殿下だったのか」


 さして意外でもなさそうなハンニバル様。


「うつけ者という話だったのでな。ひょっとしたらそういうこともあるかもと思っていた」

「迷惑をかけて申し訳ありません」

「いや何。オレの顔も王都民に売れた、ちょうどいいイベントだったよ」


 ハンニバル様は豪快だなあ。

 本当に素敵な方。


「して、王家との関係はどうなる? その辺が事情に詳しくないオレでは測りかねるのだ」

「ハンニバル様の想像通り、ギデオン殿下の偽者としてうやむやにすると思いますよ」


 ギデオン殿下が非のないわたくしを一方的に婚約破棄したことで、王家の評判は落ちています。

 今日の事件が明るみに出たら、王家はますます苦しくなったでしょう。

 しかしハンニバル様が顔をボコボコにしてしまいましたので、誰も本物のギデオン殿下だったと気付いていません。

 殿下の名を騙る暴漢と見物人が皆信じている状況です。

 間違いなく偽者として処置するでしょう。


「王家はハンニバル様に感謝しますよ。王家の大スキャンダルになりかねなかった事件ですからね」

「ハハッ、それはよかった。王家に貸しができたと思うと気分がいい」

 

 ギデオン殿下は、監禁に近い形で離宮に閉じ込められることになるでしょう。

 余計なことをするなと。

 もうその消息を聞くことはないと思われます。


 ギデオン殿下の婚約者エリー・ホーガン男爵令嬢はどうなるのでしょうか?

 少々お可哀そうですが、責任の一端は免れ得ないと思います。

 修道院送りですかね?


 ハンニバル様のお顔をぼんやりと見つめます。

 ずっと夢に見ていた『良品』のお方。

 ギデオン殿下の婚約者だった時代には考えたことはなかったけれど、今わたくしの一番近くにはハンニバル様がいるのだなあと思うと、心が温かくなります。


「ん? どうしたんだい?」

「いえ、幸せだなあと思いまして」


 これもギデオン殿下がもたらしてくれたと思うと、何だか皮肉な気分になりますね。


「ロザリンドは変なことを言うなあ。これからじゃないか」

「そうでした。これからでした」


 考えてみればまだ何も始まっていないのです。

 入り口なのにもう幸せな気分。


「ハンニバル様」

「何だい?」

「末長くよろしくお願いいたします」

「ハハッ、こちらこそ。美しい婚約者殿」


 満たされた気持ちに感謝なのです。

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