またしても何も知らない光の巨人・幸太郎~地球追放されたのでもうやけくそ!自重を辞めて超能力全開!……なんで俺、怪獣や宇宙人にモテてんの?~

れとると

幸太郎宅蟲毒開闢変

第1話 幸太郎、宇宙に立つ!

 皆美みなみ 幸太郎こうたろうには三分以内にやらなければならないことがあった。


 1つ。お湯を注いだカップ麺を食べに帰ること。


 2つ。また下り始めたおなかのために、トイレに向かうこと。大量買いしたカップ麺、ダメになっていたようだ。朝の分があたったらしい。



 そして肝心なのが、3つ目。


 光の巨人たる彼の力は、たった3分間しか持たない。


 華麗に変身決めてから、いつもそのことを自覚して背筋が寒くなる。



(今日こそはもう、無理でしょ……)



 皆美みなみ 幸太郎こうたろうには三分以内にやらなければならないことがあった。


 それは彼に迫る――――無数の猛牛型怪獣を、仕留めることだ。


 やらねば死ぬ。地球を守る使命がどうのこうのではない。むり。生き残れない。



 なんとしても、変身が解ける前に勝たねばならなかった。



(というかあいつら、どこから来たんだ?)



 ぶもー!っと激しい咆哮を上げながら、4桁は超えるだろう数の怪獣が海の上を爆走している。


 幸太郎の超常の視力は、大陸西海岸を出たばかりの奴らを捉えていた。


 目算で10秒ほどで、幸太郎のいるこの日本へ到達するだろう。



 ――――その速さ、どう考えても彼の飛行速度の1000倍を超える。



(俺が朝からトイレにこもってる間に、地球はどうなっちまったんだ……)



 当然東の果ての大陸は壊滅状態だろうし、他のところだってどうかわからない。


 幸太郎はわけもわからず、両腕を胸の前で×の字に交差させた。



 ――――3秒経過。



(そもそもなんでこの距離で咆哮が聞こえる。音より奴らの方が早いだろ?


 海上を走るのはどういう原理だ。達人か? 忍者か?


 これだから怪獣ってやつらは理不尽だ……やってられん)



 光線を放とうと力を込める。


 とにかく、正面だけでも薙ぎ払わないと轢かれる。無事では済まない。


 だが幸太郎は、見誤っていた。



 ――――5秒経過。残り2分55秒。



『ぶべらばぁ!!??』



 光の巨人が、猛然と迫るバッファローの群れに轢かれた。


 その巨体が、高く高く打ち上げられる。


 幸太郎は、見誤っていた。



 奴らの出現視点は、大陸西海岸。


 彼が目算したのは、走りだしの速度。


 つまり。怪獣どもは――――加速したのである。



 日本に到達した時点でも、まだ最高速度には至っていない。



(こんの――――ッ!)



 幸太郎はブチ切れた。


 これまで遭遇した、数々の理不尽怪獣どもの姿が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


 もう無理だ。地球を守るなんて、できやしない。



(やってられるか! やけくそじゃー!!!!)



 はねられ、高空で猛然とスピンしている彼は、そのまま最大出力で腕から光線を放った。


 手加減なし、大気圏内でやっちゃダメ絶対な極太ビームが、地球中にばらまかれる。



『ヘアアアアアアア!!!!』



 さらに出力が上がる。


 ビームが遠くの建物を、近くの山を、どこかの海を蒸発させる。


 地球二周目に突入した猛牛怪獣どもにも、遠慮なくぶち当たった。



 ――――15秒経過。残り2分45秒。



(貴様らごと大地を耕して、俺が無事に降りられるとこを作ってやらぁ!!!!)



 ビームの影に隠れるように、彼の周囲に無数の輪が浮かぶ。


 それもまた、星の各地に飛び散った。


 こちらは正確にバッファローを狙い、その首を刎ねる。



 今彼が急に思いついた技で、名は。



(やけくそ光輪じゃー!)



 光の巨人は、超常の存在である。


 およそ物理を超えている。


 普段の彼は慎ましやかに、損害が出ぬよう力を押さえていた。



 だがその自重は、捨てられた。



 猛牛一体につき一つの割合で出された光輪が、次々にその首を落としていった。


 牛はめちゃくちゃ早いが、走る方向が決まっていて、正面から投げれば避けられない。



 ――――62秒経過。残り1分58秒。



「はぁ、はぁ! やってやったぞくそったれ!」



 バッファローを全滅させたことを確認し、幸太郎は地上に降りた。


 どういう幸運なのか、彼の住処たるオンボロアパートが健在だった。



(おぉぉぉぉ!? 動いたからぎゅるぎゅる来てる! 俺がくそったれになっちまう!)



 幸太郎は微妙に内またになりながら、そろりそろりと早足でアパートに向かった。


 慎重に階段を上がり、自室に向かう。


 鍵のかかっていない201号室。素早く入り、一直線にトイレを目指した。



 ――――175秒経過。残り5秒。



「ふー、間に合った」



 素早くズボンと下着を降ろし、便座に腰かける。



 ――――4。



「おぉぉぉぉ、腹いてぇ」



 ――――3。



「あ、紙がほとんどねぇ!? 慎重に拭かないと」



 ――――2。



「そういや、今日は誰も見かけないな? なんでだ?」



 ――――1。



「まいっか。あ、カップ麺も食わないと」



 ――――0。



「ん?」



 幸太郎の足元……地球が、爆発した。







 皆美みなみ 幸太郎こうたろうには三分以内にやらなければならないことが、たった一つだけあった。


 それは爆発する地球から、脱出することであった。


 そして彼はそのことを、知らなかった。



 その日7:05。宇宙人の宣戦布告に対し、地球側は即時惑星破棄を決定した。


 訓練された地球人たちは素早く宇宙船に乗り、脱出。


 破棄された地球は、日本東京標準時12:00丁度に粉々に吹っ飛んだ。



 普段彼を気にかけてくれるご近所さんたちは、幸か不幸か田舎に帰省中。そこから宇宙へ離脱。


 幸太郎は携帯電話など持っておらず……脱出の混乱の中、誰も彼が避難していないことに、気づかなかった。




(は?)




 暗い宇宙に。


 何も知らされていない、幸太郎だけが残された。

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