ダコタ戦争における真の英雄

Bamse_TKE

ダコタ戦争における真の英雄

 チェイトンには三分以内にやらなければならないことがあった。それはチェイトンの血を分けた兄弟、マトとその他の戦士たちの暴走を止めること。彼らは恐れを知らない先住民、スー族の戦士であった。彼らはのちにアメリカと呼ばれる広大な大地で平和に、幸せに暮らしていた。ヨーロッパ人たちがやってくるまでは。


 ヨーロッパからの入植者たちは言葉巧みにスー族をだまし、払うべき金を払わず、決められていた食料の配分を止め、限られた場所以外での狩猟を禁じたのである。さらに彼らの代表は困窮を訴えるスー族の代表に対し、

「飢えているんなら、草か自分の糞でも食わせておけばいいだろう。」

とまでも言い放った。スー族の怒りは臨界に達していた。


 1862年8月17日とうとう戦争の発端となる事件が起こる。スー族の男たちが、ロビンソン・ジョーンズというヨーロッパ人入植者とその家族を殺害したのである。これが引き金となりスー族はその怒りをヨーロッパ人たちに向けた。


 8月18日の早朝、スー族の戦士団は、ヨーロッパ人たちが【南スー族管理局】と呼ぶ施設に攻撃をしかけた。数に勝るスー族の戦士たちはあっという間【南スー族管理局】を攻め落とし、その建物に火をかけた。そして、

「飢えているんなら、草か自分の糞でも食わせておけばいいだろう。」

とのたまったアンドリュー・ミリックは、この戦闘における最初の犠牲者となり、後に見つかった彼の遺体には、口一杯に草が詰め込まれていたという。


 スー族の戦士団、その勢いは止まらなかった。8月19日にはニューアルムの町を襲い、8月21日にはリッジリー砦を襲った。ニューアルムの町にいた防衛隊の善戦も空しく撤退を余儀なくされ、リッジリー砦だけはかろうじて陥落を免れた。これにより大量の民間人が非難を余儀なくされたのである。そして非難する民間人たちにもスー族の怒りが降りかかろうとしていた。


 マト達スー族の若い戦士たちは、避難する民間人たちを皆殺しにする作戦を立てていた。その方法は彼らの得意なバッファローの追い込み猟、普段はバッファローの群れを断崖絶壁に追い込んで転落死したバッファローを得る、バッファロー絶滅の原因ともなったこの狩猟法、マト達がバッファローを追い込む先に決めたのは避難を続ける民間人たち。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ、それが避難民の集団に襲い掛かるのだから、彼らはひとたまりもないだろう。民間人を虐殺することさえ厭わないスー族の怒りがついに牙を剥く時が来た。スー族の戦士たちが鬨の声を上げる。マトの兄、チェイトンを除いて。


 チェイトンは一人冷静であった。入植者たちへの怒りもあったが、武器を持たない民間人への配慮を持ち合わせていた。ニューアルムの町が陥落したとき、密かに逃げる入植者に道を示したのは彼だった。だからこの民間人虐殺とも言うべき作戦に真っ向から反対した。しかし怒りに燃えた仲間たち、そして弟のマトすら彼の言葉に耳を貸さなかった。


「俺はやるしかないんだ。スー族の誇りを守るために。一族に虐殺の汚名を着せないために。」

 チェイトンはマト達に先回りして、バッファローの追い込みが始まるのを待っていた。チェイトンの後方には入植者とその家族が襲撃の恐怖におびえていた。


 耳の良いチェイトンにバッファローの大群が押し寄せる音が聞こえ始めた。おそらくは3分ほどでここにバッファローの群れが押し寄せ、土砂崩れの如く何もかもを押し潰していくことだろう。


 チェイトンは自分の後ろから風が吹くのを確認し、目前の草原に火を放った。火は風にあおられこちらに向かって暴走するバッファローの群れに向かって燃え広がり始めた。バッファローの群れはスー族の戦士たちに追い立てられてはいたが、目の前の炎を見て走る方向を変えた。バッファローの群れは散り散りになり、マト達の作戦は失敗したのである。


 草原が燃え尽きたころ、マトは煙に巻かれて倒れているチェイトンを発見した。

「チェイトン・・・・・・。」

 そしてその後ろには避難民たちがチェイトンに対し、祈りを捧げる姿が見えた。マトは兄の亡骸を抱きかかえ、スー族の戦士たちと焼け焦げた草原を後にした。


 この後スー族の優勢は終わり、騎兵隊によるすさまじい反撃が行われ、9月26日スー族はついにその大半が降伏した。多くのスー族がひどい目に合わされ、中にはその命を奪われたものもいた。だがしかし、チェイトンに救われた避難民たちがスー族の助命に尽力したとの話が現代にも伝わっている。

 

 

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