悪夢みたいな青春だった。

天野和希

プロローグ

 本当に、夢みたいだった。

 思い出せないくらいに鮮やかで、ただ幸せな事だけが痛いくらいに染みついている。

 花緑青はなろくしょうに染まったドレスに身を包んだ君の姿はいくら手を伸ばしても届かないような気がして。

 例えば自分だけが知っている映画みたいな。もう二度と見たくない映画のように。記憶を消してでも、二度とは見たくなかった。

 人に勧めるのも気が引けた。一番おもしろい部分はどうしたって伝わらない。伝えようと躍起になっても、本当のことは自分で見ないと分からないし、分かってほしくもない。

 桜の花が芽吹いて、冬眠から目覚めた蛇がうたう。そろそろ雪も融けるころだ。

 そうだな、あれはまるで――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る