無限コンティニュー! 女神様からの緊急クエスト【3分以内に彼女を作れ!】

あすれい

第1話 ちゅ〜とりある

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 あったはずなんだけどなぁ……。


 なんだっけ? 


 とても大事なことを忘れてしまっている気がする。


「ふぁ〜……。しっかし寝すぎたな……」


 あくびとともにクルリと周りを見渡せば、教室には俺一人きり。他のクラスメイト達は皆下校したのか部活に励んでいるのか、なんにせよ俺しか残っていない。


「あいつら、面白がって俺を起こさずに行きやがった……」


 今こうして一人でいる俺も、別にボッチというわけじゃない。クラスに友人くらいいるのだが、あいつらは悪ノリが過ぎる。授業が全部終わった開放感から帰りのSHRで寝てしまった俺を、面白がって一人残してそのまま帰ったのだろう。


 おかげですっかり窓の外は茜色に染まっている。いったいどれくらい眠っていたのやら。


 まぁ、それはいい。そんなことよりも夢の中で何かがあった気がするんだ。とても重要で、命に関わるような……。でも夢なんて起きればすぐに忘れてしまうわけで。


「う〜ん……、なんだっけ……?」


 俺が独り言を零した直後、教室の壁に掛かっている時計の長針がカチッと小さな音を立てて進んだ。


 その瞬間──。


「へ……? うぐっ……、ぐあぁぁっ!!」


 ──ポンッ!


 ポップコーンか弾けるような軽い音を立てて、俺の身体が内側から爆散した。


 心臓の辺りから謎のエネルギーが膨れ上がり、肉を引き裂き骨を砕いて、最後には俺の身体は血しぶきを撒き散らしながらバラバラの肉片となって周りに飛び散った。頭だけはなぜか無事で、コロコロと教室の床を転がっていく。


 俺が最期に目にした光景は血の海に沈む教室だった。




 ***



『……はっ!』


 気が付くと、俺は真っ白な空間に浮かんでいた。身体は……、ない。光の玉みたいになってフヨフヨしている。


 なんだここは? 死後の世界か?


 ──あれあれ〜? 戻ってきちゃったんですか〜? まぁ、仕方ないですね〜。今のはちゅ〜とりあるみたいなものでしたし〜。


 俺の頭に直接、調子の軽い声が響いてくる。いや、もう頭なんて存在していないけどさ。


 そして知らないうちに目の前にやたらと光り輝く人のような形をした何が現れていた。


 ──私、説明しましたよね〜? 三分以内に恋人を作らないと死んじゃうよって〜。


『……お前か! 俺をあんな目に合わせやがったのは!』


 ──お前、なんて失礼じゃないですか〜! 私、これでも女神ですよ〜?


『うるせえ! 人を爆散させといて女神だぁ? 悪魔の間違いじゃねぇの?』


 ──ひどい言い草ですねぇ……。わかりました〜、次からもっと酷い死に方をご用意致しましょうね〜。


『は? 次ってなんだよ? 俺はもう死んだんだろ?』


 いきなりすぎて受け入れがたいが、最期の光景が頭に焼き付いている。木っ端微塵になったのだから、もう助かることはないだろう。


 ──やれやれ〜。またそこからですかぁ〜? つい三分前に伝えたことも忘れちゃうなんて、よっぽど頭の出来が悪いんですねぇ〜。


 一々間延びした喋り方がむかつくやつだな……。はきはき喋れねぇのかよ。


 だんだんとイライラしてきた。


 ──余計なお世話です〜。いいですか、もう一度だけ説明しますよ〜? とにかくあなたは三分以内に恋人を作ればいいのです〜。じゃないと死にますからね〜。そして、できるまで何度でも繰り返してもらいます〜。無限コンティニューってやつです〜!


『思考を覗くんじゃねぇよ! って待て待て! んじゃあれか? 俺に恋人ができるまで何回もあれを味わうってことか?』


 ──さっきからそう言ってるじゃないですか〜? もう説明するの面倒くさいので、次の周回に送り出しちゃいますね〜! それでは、ぐっどら〜っく!


『ちょ、話はまだ……!』


 そう言いかけたところで、俺の意識は闇に沈んでいった。



 ***



「はっ!」


 今回はしっかり覚えている。女神とやらの言葉も、爆散した自分のことも。そして周囲は……いつもの教室だ。血の海なんて存在しない。


「時間が戻ってるのか……? って、なんだこれ?」


 ふと気付くと、視界の隅にカウントダウンタイマーが表示されていた。


「さっきはこんなのなかったぞ? これ、残りの時間だよな……?」


 あのクソ女神の仕業か? 

 いやでも、これがないと制限時間がわからないから助かるのか……?

 いやいや、そもそもあいつが余計なことをしなければこんなもの必要なかったんだが?


 そこに示されている時間は残り2分23秒。俺には考え事をしている時間すらないらしい。なんで俺がこんな目にとか、三分で恋人なんてどうしろって言うんだとか色々と思うところではあるけども。また爆散なんてまっぴらごめんだ。


「くっそおぉぉぉ!!」


 俺は叫びながら教室を飛び出した。

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