ただお湯に浸るだけ
136君
ただお湯に浸るだけ
私には三分以内にやらなければいけないことがあった。その使命は忘れてしまったが。
ある日、何かの音で目覚めた。カラダが右に行ったり左に行ったり。とにかく、どこかに運ばれていることだけはすぐに分かった。
(私は…どこに連れていかれるのだろうか。)
真っ暗な空間。上になにか載せられている感じがあって、それもまた動いている。鬱陶しくてたまらない。
上に乗っている何かに入っているのは粉っぽいものと、少しドロっとした液体のようなもの。その正体は何かは分からないが、とにかく不愉快極まりない。
やがて、どこかに着いた。揺れが収まって、静かになる。その瞬間だ。
―ベリッ…ベリッ…ベベベベベベ…
突然目の前が明るくなった。
「眩しいなぁ!おい!」
そんな声も誰にも届かない。ただ、降り注ぐ光の中に消えていくだけ。そして、明らかな違和感が。
(上に乗っていたやつが無くなっている!?)
私の上に乗っていたものが無くなっていた。やがて視界がはっきりとしてきて、自分の状況が分かり始めた。
目の前に広がっていたのは、何かの袋だった。口が全開になって、そこから茶色い何かが出てくる。
「おい!やめろ!」
私の顔全部にそれをかけられる。小さな何かが私のカラダ全部に広がってへばりつく。穴という穴から粉を詰め込まれたような感覚だ。
そして私の前には銀色の何かが現れる。それにある穴からは白い何かが出ていて、シュンシュンと音がなっている。
「何する気だ!俺を何にする気だ!」
やがて何かが私のカラダにかかり始めた。
「あったか…熱っ!」
カラダを突き刺すような熱さ、そしてそれが染み込んでくるような感覚が襲ってくる。
その感覚で私は全てを思い出した。カラカラになって、そしてこの狭い空間に閉じ込められたその過去を。その時に白い誰かから言われたことを。
『三分間、熱いのに耐えてください。そうすれば幸せになります。』
三分間、熱いのに耐えるだけ。私の名前はカップ麺なのだ。
ただお湯に浸るだけ 136君 @136kunn
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